17神様と愚神
「うーっ…!」
言葉にならない唸り声を上げてアナーキーがこちらを睨んでいる…ような気がする、四方八方に配信ドローンが飛び回っているがカメラだけはこちらに向いているせいだろうか。
やがて落ち着いたのかドローンが静止してその場でのホバリングを再開し始める。
「なんでタダヒトはそんなに落ち着いてるんだよ!」
「おれ様だけこんなに恥ずかしがるなんて不公平だぞ!!」
無茶苦茶な言い掛かりだ。
タダヒトには悔いることはあっても恥じることはなにもなかった、そもそも
「うーっ…うーっ……!」
「決めた!もういっかい自己紹介してやる!!」
「おれ様はアナスタシア=オールドキング3世!」
突如、キンキンとした甲高い変声音が甘ったるくキュートでポップな少女の声に切り替わる。
「ハッカーが本名を晒したからにはタダヒトはもうおれ様の身内だからな!覚悟しろよ!!!」
そういうことに、なった。
「タダヒトがおれ様の一の下僕になった以上ここでタダヒトにくたばられるわけにはいかないんだぞ!」
「そういう訳でタダヒトにはビシバシスパルタでいかせてもらうわけだが」
「その前におさらいだ!」
「愚神がへまこいた→タダヒトがツイてなかった」
「以上!」
「そんで最終的に愚神礼賛に見舞わされそうになったって流れなんだが」
「ここまででなにか質問、あるか!!?」
あからさまにこちらに期待する声色で問いかけられる、なにか、というよりわからないことが多すぎて質問したいことはたくさんあった、その中で最も気になることを他々人は問いかけた。
「[愚神]ってのは、なんなんだ?」
「あの畏ろしい瞳、のことなんだってのはわかるけど、それがなんなのか知りたい」
「[愚神]かー…」
「めんどくせぇな…愚神について懇切丁寧に説明すると日が跨いでも終わらないんだよな」
「だから簡単にコンパクトに解説するぞ!」
「[愚神]ってのはとどのつまりクソ[公社]のやらかしのせいで実体化したおとぎ話とか怪談とかの皮を被ったバケモノのことだ!」
「[公社]のやらかし…?」
そもそもこちらに逃げこんできてマトモな生活を与えられたこと、探索者という
そして超常的な技術力を行使して電網世界を維持発展させ続けてている[公社]にもはや
信仰心に近い尊敬の念すら覚えていた他々人には[公社]が
「そう、っていっても[愚神]は[公社]が出来る以前、クソ[公社]が暗躍し始めたハコモノもなかったころよりずーーーっと!前から存在はしてたんだけど」
「たぶん西暦よりもずっと前、[かみさま]ができたころ当たりに[愚神]も一緒にこの世に顕れたんじゃねーかなって言われてる」
「[かみさま]の概念が誕生したころに、うじゃうじゃ居る人間の祈りとか願いとか恨みとか欲望とかいう集団の思念、そしてでっかい権能を持たされてめちゃくちゃに力をふるいまくるって設定された[かみさま]って物語」
「そーいう善も悪も混じった諸々の想いの[渦]みたいなもんを利用してどっかから、仮説では海の底とか別世界とか宇宙とかからずんずん押し掛けてこようとしてるバケモンが[愚神]だ」
「まぁ今の時代ではなぜかわかんねーけど[かみさま]の皮を被った大物はほとんどいなくなって[寓話]とか[伝奇]とかの小物しかいねーんだけど」
話が壮大すぎて到底想像がつかない、が少し疑問に思ったので他々人はそれを問いかけた。
「紀元前よりずっと前に居たっていうのなら、なんで[公社]のやらかしっていうことになるんだ?」
「グッド!いい質問だタダヒト!」
「[愚神]について説明してると意に反して話がとっ散らかるから面倒くせーんだよな」
「ともかくなんでクソ[公社]のやらかしで[愚神]がっていう話になるかっていうと」
「そもそもクソ[公社]が
「今昔ある書典をどう読み解いても
「タダヒトは知らねーだろうけどこの世界にはクソ[公社]が探索者制度とかやり始める前から魔術だとか異能だとかそんなんが縮小傾向だけどまだバカに出来ないくらいには存在してたんだな」
「その中にはサイコメトラーだとか過去視だなんてモノを使える奴らもそこそこ居たんだけど、そいつらに見えた光景でも[愚神]が顕現できてたのは雷雨とか大火災とか限定的な権能の行使までだった」
「ところがどっこい!ここ最近で出来た[公社]とかいう胡散臭い組織が[電網世界]とかいうハチャメチャなもんを造りあげて以来、[愚神]はどっちの世界でも[異界]や[ダンジョン]に細々と通路を作ってその一部を顕現させることが目撃されるようになったってわけだ」
「仮説ではおそらく電網世界を成り立たせる負荷で発生してる大量のバグのおかげ様で[愚神]がタダ乗りしてこっちに実体化できる力を得てるんじゃねーかって話だ」
「まぁ[電子]もあるし大体そんなとこだろうな」
「流石に全身顕現なんてものは誰も見たことねーしそれをするにも大量の
「タダヒトがこんな目に遭ってるのも大体はクソ[公社]のせいってわけだ」
圧倒的な情報量にただただ押し流されそうだったが、ピンポイントに他々人は掴んだ。
「つまるところあれは神様モドキで、探索者をやってく以上いつかはまた遭うかもしれないあれから逃れる程度の力は得なくちゃいけないってことか…」
こんな目に遭っても探索者を辞める選択肢は他々人にはなかった。
である以上憂鬱だが対処というほどではないがせめて逃走手段が取れる程度には力をつけなくてはならない、今の他々人は一人ではなく、
そんな他々人の様子を見て、ニヤリと笑う様がアナスタシアから放たれたような気がした。
「い〜い覚悟だぜタダヒト!流石はおれ様の一の下僕ちゃんだ!!心配しなくてもこの!おれ様が!!直々に!!!タダヒトを特訓してやるからな!安心しろ!!!」
「あぁ、ありがとう、アナスタシ…」
「アナって言え!」
「ご近所の人たちはみんなアナって呼んでくれる!タダヒトも一の下僕ならそう呼ばなくちゃいけないんだぞ!!!」
「あ、あぁ、わかった…あ、アナ」
俄然張り切ったように、浮かれたようにドローンを上下に振り回しつつアナスタシアが宣言した、それに不安も疑念も感じることなく他々人も頷いた、正直に言って有難かった、自らへおける疑心と、少女への信頼から素直にその提案とも決定ともいえる言葉を受け入れた。
「…?」
「それで俺はどうしてここに飛ばされたんだ?」
「…それが残ってたな」
浮かれ飛び回るドローンが急停止してタダヒトをじっと見つめる。
「…簡単に言えば[愚神]の手下の[
言われてあの苗床からドロップした小さな宝箱がその手から無くなっているのに気づく、完全に無意識で、半ば発狂しながら行動していたため全く自分でそれをした記憶がなかった、もしそれがなかったらとふと頭をよぎりゾッとする。
珍しく神妙な空気を声に漂わせつつアナスタシアが呟く。
「ここからはちょっと覚悟しろよ」
間を置く
今までにないアナスタシアの態度に他々人も思わず姿勢を正して話を聞く体制を整えた。
「ダンジョン外に強制転移って言ってもあの[愚神]の手下モンスターが遺した[code]の罠だ、生半可な悪意じゃねー」
「とは言っても今回はご主人さまに後ろ足で砂かけたようなもんで失態にもほどがあるが、それでも即死じゃなくなっただけで今のタダヒトが最悪の状況なのは変わらないんだ」
「ここは[廃世界]の[第一一一怪異侵食封鎖区域 思比良屋敷]第5層」
「タダヒトにわかりやすく言うと」
「[現実世界]におけるダンジョン、[リセット不可]の、
他々人は、頭が真っ白になった。
脅威度5とか、リセット不可という話よりも
逃れられたと思っていた[現実]に、追いつかれたように思えて。
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