第9話
忌々しい目覚まし時計の爆音が、真司の耳をつんざいた。八月の朝は真司の全身を汗でびしょ濡れにしていた。真司の部屋には備え付けのエアコンがあるが、電気代を節約するためにほとんど使ったことがなかった。
真司は汗まみれのシャツを脱ぎ捨てるとシャワーを浴びた。またあの工場に行かなければならないと思うと、体にまとわりついたシャワーの水滴さえ重く感じられる。真司は朝食も取らずに工場へと向かった。
マンションから工場まで歩いて二十分程。自転車に乗ればそれほど時間はかからないが、自転車を持っていない。本音を言えば、なるべくゆっくり歩いて工場に辿り着く時間を遅らせたい。毎朝思う。待っている信号が永遠に赤から青に変わらないでほしい。自転車が自分にぶつかって来て足を骨折させてほしい。道路工事が始まっていて道が通れなくなっていてほしい。こんな思いは、一度たりとも実現したことはなかった。
工場での一日は、毎朝八時のラジオ体操から始まる。社長の服部は元気ハツラツだが、従業員たちは眠い目を擦りながら、ダラダラと体を動かしていた。真司は担当する車の修理を行うべく作業準備に取り掛かった。
「真司、おまえ、昨日またやらかしたらしいなあ」
真司の背後から横山の声が聞こえた。
「さっさと出発しねえから遅刻すんだよ。相変わらずぐずいよなぁ、おまえ」
横山がばかにしたように言った。真司の出発が遅れたのは、だれのせいでもなく横山の怠慢な作業のためだった。
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