第114話 蛇は沼蛇の話を聞く

 そしてそれは3日かけて、花開くような繰り返しの通路が、最初につくったものを最外周の1つとして、3重の花束の様に構成出来た……その最後に一番中央にして、他との差は僅かながら一番高い位置になる花の模様がもうすぐ掘り抜ける、というタイミングにやってきた。


「うちの若いモンが、大層失礼致しました……!」


 先のラミアと同じような、けれどこちらは元の緑色がグラデーションで、花や蔦、鳥、小型の獣、時には戦士らしい人型の姿等々がほとんど全面に刺繍された大きな布を服とした上、長い髪を生花や骨で美しく結い上げた女性がやって来て、まず第一声がそれだった。

 しかも動作として、がばっ! と勢い良く頭を下げている。なお、場所は毒水の滝がある丸い大部屋の、壁際に点々と作られた台座のような毒水に濡れない場所だ。今度は1日前に先触れとして蛇モンスター(ユーラリングの支配下ではない)からの伝言があった。

 その台座のようなものの1つに、前回と同じように灯りとテーブルと椅子とお茶を持ち込み、今度はマットと消臭・芳香剤もセットして、簡易的ながら「客間」を作って出迎えたユーラリング。数秒フリーズ。


「……まぁ、事実だけ見れば未熟者である事は事実である故な?」

「貴女様が木っ端であるなら、我らの主は塵芥です!」

「そこまで卑下せんでも良かろうに」

「それこそ事実というものです……!」


 えぇ何この手のひら返し……と思うユーラリング(の中の人)だが、表には出さない。出したら面倒な事になりそうだからだ。

 大げさだなぁと思いつつも小首をかしげる。話が全く進まない。


「で。先触れで聞いているが、「商談」か?」

「は。出来れば、お話を聞いて頂くだけでも、と……」

「まぁ、聞いてからだ」


 今度は言葉も通じそうだし。という部分は声に出さず、ユーラリングは前回と同じようにカップに口を付けた。もちろん、目の前の推定上位なラミアは知らないだろうが。

 その落ち着き払った様子を見てか、それとも単に言うべきことを言えたからか、推定上位なラミアは深呼吸を1つ。


「改めまして……私は『死毒の蛇沼』所属、“魔王”【エキドナ】様配下のハイラミア族、通り名をラミと申します」

「『ミスルミナ』の“魔王”、通り名をリングである」


 仕切り直しだったのか、名乗りからやり直す(?)ことにしたらしい推定上位なラミア、もとい本当に上位のラミアだったラミ。それに、もう知っているだろうが、という前置きを含めて、ユーラリングは事務的に返した。


「まずは先日、『死毒の蛇沼』所属のバカが大変な失礼を致しましたこと、心から謝罪いたします。申し訳ありません」

「良い。そちらから無断で毒水を引いているのは事実だ。むしろ、そちらの領域に無許可で繋げたとして、こちらから挨拶に行かねばならぬところを先延ばしにしていた。その非は我のものだ」

「その毒水の件ですが。我らが主である【エキドナ】様から、「毒水が広がるのは大歓迎。お代は毒由来で死んだ侵入者のマナでもうとっくに済んでて利益更新中。というか作るだけ作ってる毒水の循環が進んで大儲け。ごちそうさま。以後もよろしく」との言伝をお持ちしました」

「……、まぁ、そちらがそれで良いのであれば、こちらは歓迎だが」


 意訳……にしては顔が真面目で口調がラフだ。つまり、言葉そのまま伝えた、という事だろう。

 で、毒水を勝手に引き込んでいる分は全く構わないどころか、大歓迎だったようだ。しかし毒水の循環が進んで大儲けってどういう状況だ? とユーラリング(の中の人)は内心で首を傾げていたが。

 が、ラミは謝罪がすっと済んでほっとしたのだろう。いくらか緊張の抜けた顔で、とても見覚えのある革袋を取り出し、テーブルの上に乗せた。


「そして、そちらに頂いた宝ですが……本来なら全額返還すべきところ、バカが手前の分として抜き取ったらしく、鑑定書と比較して数枚足りませんでした。申し訳ない」


 まさしくチンピラだったんだなぁ……と思わず僅かな呆れを顔に出してしまったユーラリングだが、ラミは再び深々と頭を下げたので見ていなかったようだ。

 数枚減った程度では見かけが変わる訳もない。これは受け取ればいいんだろうか、とか思いつつ、ユーラリングはお茶を飲みつつ小首を傾げた。


「まぁ、そちらで罰が与えられているのであればそれで良い。……という訳にも、いかんのだろう?」

「は。流石に額が額、モノがモノでしたので……。もちろん、当人はその額が稼ぎ切れるまで、無給で強制労働を課しております。が、恐らく数年がかりでも稼げるかどうかは怪しいでしょう」

「で、あろうな」


 鑑定書の内容を思い出しつつ、流石に自分の価値というものをそれなりに自覚するようになったユーラリングは頷きを返す。

 ちなみに、何が入っていたか、というと……第9層のギミックとして登場する、強化陶器のコインだ。そしてそれはそのまま、地上階に設置されたガチャの、最上位のそれを引く為のコインでもある。

 ……サタニスが地上階建設現場防衛の報酬として100回分、1000枚を貰って喜び踊り、そして地上階中央に辿り着いた“英雄”達を誘惑して破産させた、魔のコインだ。強度が強度なので、「血の刻印」のように砕いて使う事は出来ない。

 出来ないが、景品をユーラリングが用意するガチャの、最上位の景品の価値を考えれば、その市場価値はお察しだし、だからこそ鑑定書がついたのだが。


「売り払われた1枚は、買い戻せました。むしろそこで発覚したと言いますか」

「ふむ」

「が……あの、バカは。毒水の生産も担当しており……」

「……亡失生産スキルの持ち主だったのか」

「は。しかも、タイミングが良いのか悪いのか。その前日に、錬金釜が発見、導入されたところでして……!」


 亡失生産スキル、とは、新月の祭事イベントで出てきた、錬金釜をはじめとした上位生産スキルの事だ。単に上位ではないのは、それらが一度失われ、また生産設備の生産が未だ出来ないからという理由による。

 そして、亡失生産スキルの生産設備には、現金である金貨を始め、魔物素材を使ったコイン状のアイテムをはめ込むことで性能を上げる機能が付いている。

 つまり。


「一応聞いておこう。……性能はどうだった?」

「文字通り、雲泥の差で御座いました。毒水の源泉を即日入れ替える程に」


 材料がどれだけ普通か質が悪く、そして作業者の腕が普通或いは悪くても、あのコインを使えばぶっ飛び性能のアイテムが作れる、という事だ。……何せ、あのコイン自体がぶっ飛びアイテムなので。

 そして「源泉」という言葉に、あ、なるほど。あの毒水って無限生産の類か。廃棄処理が有効活用されるなら得になるってことなんだな。と、「大儲け」発言の真意を理解するユーラリング。


「そのスキルの取得もあって鼻っ柱が伸びていたところに、【エキドナ】様が所用で出かける事になり……その勢いで、【エキドナ】様からは、上手く行っている限り不干渉と言われていたこちらへ押しかけた……というのが、真相となります」

「なるほど。そしてその留守の間にちょろまかし、売り払い、それが戻ってきたそちらの主に知れて現在、という事か」

「改めて申し訳ありません……!」

「良い。それはもうそちらが下した裁定で納得している」


 再度の謝罪に入った所でユーラリングはそれを止める。まぁ何処にでもいるタイプだな、と、既にあのラミアに対する興味はほぼ無くなっていた。

 まぁそれはそれとして。数枚足りないと言い、1枚は買い戻せた。という事は、生産として使われたのは1枚か2枚。……まぁそれでも、市場価格を考えると、それこそ下っ端では一生かかって払いきれるかどうか、だが。

 そして「商談」に来たという事は、その消えてしまった差額の話だろう。と結論付けたユーラリング。謝罪と事情説明が終わった以上、そろそろ本題に入れそうだろうかと思いつつカップに口を付けた。

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