親泣かせの異世界記録帳
木霊ミズチ
第一話 プロローグ
真っ暗な部屋でテレビの画面が激しく点滅する。
カーテンは完全に閉ざし、隙間からは明るい光が漏れ出ている。どうやら朝になってしまったようだ。
そんなことを考えていると気づけば敵は倒れていた。
コイツも行動がパターン化されてきたな。
敵に攻撃を当てればHPが減る。
敵の攻撃は回避行動で避けられる。
弱点があれば探る。
所詮ゲーム、結局どこまでいってもそれ以上でもそれ以下でもない。
既に100回近く討伐している敵の死体の前で立ち尽くした後、飽きたようにコントローラーを放り投げ、床に寝転んだ。
「なーんか面白い事ないかな・・・。」
今年で18になるというのに学校にも行かず家で自堕落な生活を繰り返す毎日に面白い事など起こるはずもない。
ーやらなければならないとはわかっていても行動に移せないー
ーしなくてはならない事を先延ばしにするー
ー自分と同じような人間はこの世に大勢いると思い込むー
ー自分はダメな人間だー
そんなことは誰よりも理解している。
何度もアニメの主人公に感化されたり、当たり前の事をさも真理のように語り、家に帰ったら、明日から・・・・・と。
その時にはやる気などとうに置き去りにしているというのに。
そうしているうちに月日はどんどん流れていった。
こんな息子になってしまった事に両親は呆れ返って、遂には何も言わなくなった。
「無限に時間があるっていうのも暇なもんだ。」
たまの月曜だ。コンビニで少年誌を買って帰ろう。
そう思い立ち、カルマは体を起こした。
着慣れた部屋着の上にジャージを羽織り、袖を通し、ジッパーを限界まで上げた。
自室の鏡をふと見るとジャージですら見慣れない自分の格好に少しだけ恥じらいを感じた。
外に出ると眩しい太陽に照らされ、カルマは目を細めた。
今日は6月なのにも関わらず最高気温が34度を記録したらしい。
夏など来なければいい。
太陽を睨みつけながら心の中で呟いた。
カルマにとっては毎日が休みなため、夏はただ気温が高くなるだけというイベントに過ぎない。
強いて言うならソーシャルゲームで水着イベントが開催される事だけが楽しみだった。
ため息を吐き、カルマはコンビニへと歩き始めた。
自宅から徒歩7分程のコンビニへと到着した。
少し外に出ただけで既にジャージの内側に汗を大量にかいてしまっていた。
こんな調子なら家を出たときに脱いでくればよかった。
入店と同時に近頃は親の声より聞いた馴染みのある音楽が鳴り、冷風が体を包んだ。
普段なら寒すぎる温度設定のクーラーが今はちょうど良かった。
カルマは入店直後左へ曲がり、雑誌コーナーへと直行した。
そして少年誌を手に取った。
見慣れない絵柄の表紙が新鮮だった。
今週は新連載があるのか、まぁ期待はしていないけど。
本を脇に抱え、ふと外を見るとカルマが通っている高校の同級生のカップルがコンビニ前を通った。
そういえばここは高校の通学路だったな。
すると男の方がこちらを見た。
一瞬目があったように感じたが、気にせず顔を逸らしその場を離れた。
そして次に菓子の棚へと向かった。
買うものなど既に決まっていたにも関わらず、無駄に悩むふりをし、結果普段買っているポテトチップスとチョコレートを手に取った。
悩むことで自分の中にある『自分は何もしていない』という思考を晴らしたかったのかもしれない。
カルマは下の段にあるポテトチップスを取るためにしゃがんでいたが立ち上がり、レジへと向かった。
「お会計613円になります。」
店員に言われ金額ピッタリを支払い、レシートをちぎり取りコンビニを出た。
コンビニ内と外とでの気温の差に気が滅入りそうになった。
「さっさと帰って寝よう。」
カルマは今日で二徹目だったため、流石に睡魔が襲ってきた。
室内と室外での寒暖差は睡眠不足の体により一層負担をかけた。
帰宅の最中、よろよろと歩道を歩いていると前方から自転車が走ってきた。
おいここ歩道だぞ、自転車なら車道走れよ。
自転車に乗っている人物を睨みつつ避ける為に少し車道に出た。
自分のこういうところが嫌いだ。
相手が正しくないのにも関わらず相手に一歩譲ってしまうのである。
そのくせ心の中では一丁前に反論している。
自転車が通り過ぎて歩道に戻ろうとすると
背中から全身に響く大きな衝撃を受けた。
視界がひっくり返り、視点の位置が急激に高くなった。
体は軽く、足に地面の感覚は無い。
まさに宙に浮いている様だった。
なんだこれ・・・・・・。
地面が次第に近づいてきた。カルマは太陽に照らされ、黒光りしたアスファルトに激突した。
ー熱い熱い熱い熱い熱い熱い
地面と触れている肌が焼かれるような痛みと共に、首元にも熱を感じた。
しかしこれが痛みだと気づくまで、そう時間はかからなかった。
目の前には先程コンビニで買った物が散乱していた。
あぁ・・・これダメなやつだ・・・。
意識が朦朧とする中、痛みと熱だけを感じ、遂にカルマは目を閉じた。
待ち望んでいるだけで永遠にアップデートされ続けるゲームなどこの世に存在しない。
いつかは運営が困難になりサービスが終了する。
それと同じく『生』とは、自ら考え、行動しなければ必ず終わりを迎える。それがいつになるかは誰にも分からない。
それが彼には少し早過ぎただけなのかもしれない。
齢17にして
フジイ・カルマ
ー死亡ー
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