第6話 百花の魁・梅編⑥

 攻撃を避けないとやられる。

 でも。

 俺が攻撃を避けたら、寒空で綺麗に咲くこの梅の木が切られてしまう。

 それは嫌だな。

 梅だって、切られたら痛いのを俺はよく知っているんだーー。


 ☆


「こうやって戦うのは久しぶりだね、梅」

「確か、一勝一敗だったな、ヒガンバナ」

「そうだよ」

「「次こそ、勝つーー!」」



【ーーリンク解除。リミッター解除。操作権を花姫に委譲します】



 ヒガンバナと梅の身体がオーラを放つ。



【ーー燃え尽きろ!フレイムパレット】


 ヒガンバナの大小様々な炎の弾丸が梅に襲いかかる。球速はランダムにされ、回避を難しくさせている。だが。


【一閃!】


 梅は一撃で炎の弾丸を切り伏せる。


【追撃っ!フレイムパレット!】

【効かぬよ、一閃っ!】


 炎の弾丸の爆発を利用し、梅はヒガンバナの攻撃を無効化していく。


【やっぱり火はダメだね。切りやすいよね】

【あぁ、はっきりと目に見えるからな。見えるものはなんでも切れる】


 いくつか跳ね返された弾丸を避けながらヒガンバナは笑う。

 勝負は追い詰められなきゃ、面白くない。


【止まれ!ダークミスト!】

【霧も切れるぞ!一閃!】

【切られるのはわかってる!目的は足止めだよ!】

【このくらいの霧、重くともなんともない!一閃っ!!】


 闇の霧が剣で薙ぎ払われる。だが、霧は形を変え、刀へと纏わりつき、刀の切れ味を鈍らせる。


【うぉぉっ!一閃っ!!】


 刀は振り抜かれ、霧は霧散する。


【ーー梅ならと思ってたよ】


 振り抜いた刀が一瞬で腐食し、ボロリとその刀身が崩れる。


【ヒガンバナの本分は毒。刀に効く毒はナトリウム。ヒガンバナの勝ちだよ。切る切らないじゃなく、毒にはなんだよ、梅】


 崩れた刀身を梅が抱き締める。

 勝負あり、だった。


 ☆


「ーーほら直ったよ、梅。もう泣かないで」

「むー。納得いかない。なんでヒガンバナ、悪者になってるの?」

「……ありがとう、桔梗。すごいのだな。桔梗は無機物まで直せるのだな」

 刀を壊され、ぽろりと涙を溢した梅にヒガンバナ以外の全員が慌てていた。

「んー……ちょっとやり過ぎちゃったね、ヒガンバナ」

「プロテア様までひどいよ」


 だって。

 そこまでしないと梅には勝てなかった。

 ヒガンバナは花姫最強の矛で、梅は花姫最強の盾だから。


「……ヒガンバナは悪くない。我が未熟だったのだ。本気で戦ってくれてありがとう、ヒガンバナ。次は負けぬ」

「ヒガンバナも負けないよ」

「ねぇ、梅。また着いてきてくれる?あの約束も果たしたいし」

「!覚えてくれてたんだね、あの約束」

「もちろんだよ」

「約束ってなぁに?」

「それは梅とふたりの秘密だよ」


 ずるいとヒガンバナが膨れている。


 ーー何十年、何百年かかっても、梅太郎さんの家に行ってみようか。全てを知りたいんだろう?俺が梅を連れて行くよ。



「ーーおかえりなさい、プロテア様」



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