第4話 策略家クレマチス編②

「クレマチスの花が咲いてる。ということはこの辺りにクレマチスがいーー」


 美しいクレマチスの花に気を取られていると、俺は誰かとぶつかった。


「すみません。大丈夫ですーー」


 ちらりと見えたその顔に俺は一瞬驚いて口を閉ざした。濃い紫色のポニーテールの彼女の顔には酷い腫れ物が出来て痛そうだったのだ。


「あぁ、やっぱり驚きますよね、この顔。醜いものをみせてごめんなさい」

「いいえ!醜いなんて思ってませんよ!ただ痛そうだなと思っただけで!」


 眼鏡の奥の瞳が揺れるのを見て、俺は慌てる。


「……同情してくださるんですか?なら、治療費をいただけませんか?お金がなくて、治療を出来ないのです」

「お金よりも良い方法があります!回復の力があるので、それを使えば……って、なんでみんな笑ってるのさ?」


 様子を見守っていた樹姫以外が笑っている。

 そして、ハッと本で見た逸話を思い出す。

 クレマチスの逸話と言えばーー。


「あー!あなたがクレマチスですね!?」

「御名答。あー、騙されてくれちゃって、おかしいったらないわ」

 くすくすと笑うクレマチスに俺の顔は赤くなる。

 クレマチスの逸話とは、自分の葉の汁に毒があることを利用して、自分の肌に塗りつけて、わざと腫れ物を作り、憐れみを乞うというものである。


「ーー桔梗、ちょっといいかな?」

「いいよ」


 俺は桔梗にキスをして、クレマチスの顔と腕に触れる。


【ーー能力発動。完全回復】


 回復の力で腫れ物のひいた彼女はとびきりの美少女だった。


「……俺をからかうために自分を傷つけることをするんじゃありません。顔もだけど、毒を取った腕も痛かったでしょう?」

「……うん。心配してたけど、ちゃんとプロテア様だね。ひとまずは合格かな。ま、女の子の顔に無断で触れたのはマイナスだけど」

「……久しぶりに会ったけど変わらないわね、クレマチス」

「私は変わらないさ」

「なら私が言いたいこともわかるわよね?」

「わかるよ、桔梗。でもそれこそわかりきってるだろう?桔梗がいるからこそ、私はあんなことをしたのさ。桔梗がそばにいないプロテア様こそ偽物だろうさ」


 ぎゅっとクレマチスを樹姫が引っ張り、クレマチスはバランスを崩し、もつれ合うように倒れる。


「じぶんにいたいことをしちゃだめなんだよ、おねぇちゃん」

「…………うん?このちっこいのは誰だ?」

「私とプロテア様のむ・す・めよ」

「はぁーー!?」


 クレマチスの悲鳴が轟いた。



 ☆


「ーー取り乱して失礼した。その、プロテア様にそっくりだったからびっくりした。そうか、姪か。なら似てるのも納得だが、でも血縁……なんとも羨まーーって、何を言っている、私は。落ち着け、私。素数を数えるんだ」

「やっぱり驚いたわね、クレマチス」

「……楽しそうだな、桔梗」

「そりゃ、いつも冷静なクレマチスの取り乱す姿なんてレアだもの」

「……笑うな。あと、自慢気にするな、グラジオラス」


 ちょっと拗ねているクレマチスがかわいくて俺もつい笑ってしまう。頭が良い人間のこういう姿はレアだ。咳払いをしてクレマチスが話し出す。


「さ、生まれ変わり君の知能を試させてもらおうかな。私がこれから問題を出す。みんなで答えを考えるといい。あまり私をがっかりさせるなよ?」


“ある男の子は、3日前は10歳でした。でも来年は13歳になります”


「どういう意味かわかるかな?」

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