第3話 忘却のグラジオラス編⑤

「……ねぇ、見える?あそこにいるのがクロユリだよ!」

「そんなに慌てなくても見えてるわよ」


 手を引かれながら私たちはクロユリの元へ向かう。

 なんだか不思議な感じ。

 だって私はクロユリを知っているのだから。


 そう、いつもと違ってはしゃいでいたから事件は起こったのだ。



「ーーっ!直樹、後ろっ!」

「え?」



 私が声をかけたときはもう手遅れで。

 熊が直樹に襲いかかっていた。


 そう。私たちは熊除けの鈴を忘れていた。


 直樹が倒れる。

 熊が直樹を押し倒し、爪と牙が肉を抉る。

 血が、流れていく。


「ーーっ!直樹から離れなさいよっ!」

「!グラジオラス、熊を刺激しちゃだめ!」


 パニックを起こす私たちの前にふわりと紫色の髪が揺れる。


「ーー驚かせてごめんね。住処にお帰り。久しぶりだね、クロユリ、グラジオラス」

「「桔梗!」」

「再会は後。今はこの子を治療しなきゃ……この子がプロテア様なんでしょ?」


 桔梗が直樹に触れる。


「ちょっとごめんね?」


 桔梗の唇が直樹に触れた。




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