第41話


「な……、ん、で……」


 俺は喉の奥から、なんとか声を絞り出した。


「おや、ククリ様、まだ声が出せるのですか?

私の魔法にそこまで抵抗できるとは、さすがは私のククリ様です……。

……どうして? そんなの、決まっています。

ククリ様、私は貴方をどうしようもなく愛しているからですよ。幼い頃から、ずっと!」


 ルカは、俺が着ているメイド服のエプロンを器用に外した。



「私はずっと貴方のそばで、貴方にお仕えするつもりだった。

もし、貴方が成人して、どこぞの令嬢と結婚しても、ずっと貴方のそばで、貴方を見守っていられればそれでいい……、

そう思っていたのに!!」


 ルカはそう言うと、俺の身体に乗り上げ、襟のリボンをするりと引き抜いた。



「アスラン・ベリーエフ! あの男だけは絶対に許すことはできない!

あの男は、突然ククリ様の前にあらわれて、ククリ様の心を奪っただけでなく、

ククリ様にお仕えしていた私達を排除し、ククリ様を独り占めしたのです!

私は最後までククリ様の元を離れまいと粘りましたが、ついにあの男は、この上なく陰湿な手を使って、私をククリ様の元から去らせたのです……」


「!!」



 あの時、俺がアスランとふたりきりになったのは、皆が俺の元から去っていったのではなく、アスランが皆を排除していたというのか!?


 ルカは何かを思い出すかのように、その目を細めた。



「私はその時誓いました。

絶対にアスランからククリ様を取り戻してやる!と。

そして、あの男はククリ様を独り占めできたことをいいことに、ククリ様を女装させ、剣を捨てさせ、ついには超法規的な手を使い、ククリ様と婚姻関係まで結んだのです!」



 ルカが忌々しげに舌打ちする。



 ――いや、それはちょっと違うような気がするが……。


 だが反論しようにも、俺にはうめき声を出すのが精一杯……。




「でも……」


 ルカは、俺のワンピースの襟元に手をかけると、強引に引き裂いた。

 ボタンが弾け飛び、ベッドの下の床に転がる音がした。




「私は知っているんです。ククリ様とアスランの結婚の秘密を!

エルミラ元王女は、ククリ様とアスランの結婚自体は認めたが、可愛い末息子のククリ様が、性欲にまみれたおぞましい男に蹂躙されることは、決して認めることはできなかった。だから……」


 ルカが俺の耳元をくすぐる。



「アスランは契約させられていたのです。

ククリ様が20歳の誕生日を迎えるまで、決して手を出してはならないと。ククリ様の身体を決して穢してはならないと!」



「……っ!」


 俺は大きな衝撃を受けていた。


 俺とアスランの結婚に、そのような取り決めがされていたなんて!!




「おや、ビックリされているようですね。

この世の穢を知らぬククリ様には、少々刺激が強すぎましたでしょうか?

エルミラ様としては、この結婚は到底、ククリ様が20歳になるまで持たないであろうという考えがあったようです。

ああ、私がククリ様に先日お教えした20歳になったときに下るという王命、あれも本当のことですよ」



 ルカは楽しげに言うと、俺の鎖骨に指を這わせた。


「……っ!」

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