第28話

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「おやすみ、ククリ」


「おやすみ、アスラン」


 いつもの夜の挨拶。



 だが、アスランの唇が俺の額に触れる寸前、俺は言った。



「あのさ、アスラン。前から言おうと思ってたんだけど、

絶対に一緒に夕食をとるっていう約束、もう反故にしてもいいよ。

アスランも、魔法騎士団の仕事が忙しいだろ?

しかも、その約束のせいで、遠征にも行けないし……」



 俺から身体を離したアスランは、俺をじっと見つめた。




「どうして、急にそんなこと言い出すの?」



「いや、急にってわけじゃ……。前から思ってたことだし……」



 すぐに離婚はできなくても、アスランの足かせを外すことは、俺にだって少しはできるはずだ。




「ククリは、もう俺とは一緒に食事をしたくないってこと?」


 アスランは、またさっきみたいに、傷ついた子どもみたいな表情になった。



「いや、そういうわけじゃない。そういうことを言ってるんじゃなくて、ただ、俺は……」


「ククリ…‥」


 気づくと俺は、アスランに壁側に追い詰められていた。



 ――これって、いわゆる超絶イケメンの壁ドン!!??




「あの……っ、アスラン、俺……っ」



 どうしよう、アスランの顔が至近距離にあって、いろいろツラいっ!!




「ククリが今の恰好に戻ってから、ククリは変わったよね?

前はずっと、俺の側を離れなかったし、俺が仕事で離れているときも、ずっと俺のことを気にしてくれていた。

でも今は、ククリは……」


 アスランの吐息が、俺の頬にかかる。




「今のククリは、俺のことなんて、全然、見ていない!」


 アスランの美しい瞳に、吸い込まれそうだ……。




「アスラン、それは、違う……」


 俺の言葉に、アスランは俺の横の壁を強く叩いた。



「違わない! 教えて、ククリ、君は今、いったい何を考えてるの?

俺は、不安で仕方ないんだ……。

このままでは、ククリがどこかに行ってしまいそうで……」




 アスランの表情は苦し気で、どこか、切なくて……。


 でも……、



 ――これも、俺を繋ぎとめるための、罠なのか!?






「……」


 思わず身をすくませた俺に、アスランは唇を噛み締めた。




「ごめん。怖がらせたかったわけじゃ、ないんだ……」


 そう言って、俺の頬にそっと手をあてる。



「アスラン……」


「ククリ、どこにも行かないで。どうか、俺の側にいて……」



 アスランはそう言うと、俺にその美しい唇を近づけた。





 ――キス、される!!??



 もしかして……、もしかしなくても、俺の今生のファーストキスっ!!??





 思わずぎゅっと目を閉じた俺に、アスランはくすっと笑うと、そのまま俺の額に唇を落とした。




「おやすみ、ククリ、いい夢を」







・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る