第23話
「ククリ様、旦那様のアレはやはり一時の気の迷いだったんですねっ!
旦那様が、ずっとククリ様と添い遂げられるつもりだとの決意を聞いたとき、ネリーはいたく感動いたしましたよっ!!」
夕食後、部屋に戻った俺に、ネリーは興奮気味に話しだした。
「……」
押し黙る俺に、ネリーは不安げに首をかしげた。
「ククリ様、いったい何をそんなに心配されているんです?
旦那様はククリ様のことをそれはそれは大切になさっていますよ! このネリーが保証いたします!!
ほら、私の母も、叔母も、言っていましたよ。男の浮気なんて、ちょっとした風邪みたいなもんだって!
だからもう、あんな赤毛の女のことなどお忘れになって……」
「なんだか、腑に落ちないんだ……」
俺は顎に手を当てた。
「腑に、落ちない?」
「あのときのアスラン……、
まるで、俺が離婚を切り出すことを、あらかじめ知ってたみたいだった。
わかるんだよ……、ずっと一緒にいたから……。
それに、いくらアスランが冷静だって、急に俺から離婚を切り出されて、びっくりしないはずはないよ」
「でも……、まさか、旦那様が、そんな」
「それに、アスランが俺との結婚をどうしても続けたいという理由がわからない。
だって、この結婚は、アスランにとっては……」
ーー続ける意味など、ない。
そこまで考えて、俺は気づいた。
でも、俺との結婚に拘る理由が、なにかアスランにあるとしたら?
この結婚を続けるなにかとんでもない旨味が、アスランの側にあるとしたら……?
結婚相手は男で、性的な触れ合いもなく、なおかつ義理の家族は自分を暖かく迎えるつもりはまるでない。
新居は、結婚相手の実家の敷地内に建てられており、我が物顔で義理の母親が出入りする……。
そして勤務先の魔法騎士団では義兄にいびられ、常に親族に監視される日々……。
そんな数々を耐えてでも、得難い、なにかとてつもないメリットが、あるならそれは……。
ーーアスランが、俺とどうしても離婚したくないという理由に、なりうるだろう!
「ああっ、俺にアスランの真意がわかれば……」
頭を抱えた俺の脳裏に、今日のパーティでルカから言われた言葉が浮かんだ。
『あなたはアスランのことを未だになにもわかっていらっしゃらないようだ。
先に話しておきますが、アスランはククリ様との離婚には、決して首を縦には振らないでしょう』
ーーもしかして、ルカは何かを知っているのか!?
ーーそもそも、なぜルカはあのとき、湖にいたのだろう?
魔法騎士団でのバディは、いわゆるお互いの背中を預ける間柄。
アスランとルカの二人が、互いに強い信頼で結びついていなければ、あれほどの功績を上げることはできないだろう。
ハリボテの結婚相手である俺よりも、騎士団のバディであるルカのほうが、今のアスランのことをよく知っている可能性は高い。
『ーーククリ様、お困りのときは、どうかまた私を頼ってください』
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