第16話

 まさか、こんなことがあって、いいのだろうか……。


 ――俺は戦慄していた。



 まさか、まさか……、




「ククリ、うれしいよ。こんな見たこともない素晴らしい礼服を俺のために?」



 ――俺は超絶美形の潜在能力を、完全に侮っていた!!!!





「わあぁ! 旦那様、なんというか、なぜか……とてもよく、お似合いで……!」



 壮絶な美に圧倒されたネリーが、馬鹿正直な感想を口にする。




 ……あのハイパー趣味悪金ピカスパンコールギラギラスーツを……、



 すっきりと、着こなしてしまう、だと……!!!!????






 そうだ、俺は前世の経験から身をもって知っていたはずなのに!


 趣味悪モサダサ服も、イケメンが着こなすとあら不思議、なぜかエッジの利いたお洒落服に早変わりすることがある、ということを!



 でもそれが、嫌がらせのために購入したあの金ぴかスーツに適応されるなんて、誰が思おうか……。





「ははっ、アスラン……、気に入ってくれたならうれしいよ」


 俺は思わず顔を引きつらせる。



「ククリ、ありがとう。今日のパーティのために選んでくれた君の恰好もとても素敵だよ。

その色、君の瞳と髪の色にとてもよく似合ってるね!」



 そりゃそうだろう。こちとら、カラーコーディネーター検定一級だからな!!

 って、そんな話はアスランに通用するはずもなく……。



 なぜか完全に着こなされてしまった金ぴかスーツを身に纏ったアスランを連れ、俺は魔法騎士団・コミュニケーションパーティに出席することになったのだった。



 ――でも、きっときっと、パーティ会場の誰かが気づいてくれるはず! このスーツのセンスの悪さと、これを贈った俺の趣味の悪さを!!!!!











・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「おいっ、アスラン・ベリーエフ。副団長の俺よりも目立つ格好で乗り込むとは、なかなかいい度胸じゃないか!」


 パーティ会場到着早々に、俺たちはさっそく厄介なのにつかまってしまった!!



「これはククリが私のために贈ってくれたものです」


 気持ち得意げに答えるアスラン。これは…‥、もしかして、俺の真意をすでに見抜いているアスランが、逆に俺に羞恥プレイをしかけてきているとか、そういうことなのかっ!?


 

「なんだと、ククリっ、お兄様は悲しいぞっ!

このキラキラスーツは、黒髪のアスラン・ベリーエフより、この金髪のお兄様の方が似合うって……!! 

ククリたんはそう思わなかったのかな??」


 途中からなぜか猫なで声に変わる、目の前のこわもての男……。



「ジェノ兄様……」


 悲しいことに、この金髪に暗褐色の瞳の野性味あふれる魔法騎士団副団長――、ジェノ・アントニアンは、俺の実の兄である。


 ジェノはメルア家の次男。御年29歳。

 既婚で、妻はなんと、泣く子も黙る魔法騎士団団長のエリザ・アントニアン(34歳)である!!


 そしてジェノは、この5歳年上の妻に、公私ともに頭が上がらず、その鬱屈した感情を若手の部下、かつ義理の弟であるアスランをいびって発散させているという、いわゆる典型的なパワハラ人間である!




「ククリたん、ドレス着るのはやめちゃったの? お兄様、ドレス姿のククリたんも大好きだったけど……、でも今のククリたんも可愛いよ!

うん、ククリたんはなんだって、可愛い! 可愛いは正義!

おいっ、アスラン・ベリーエフっ!! お前、こんな可愛いククリたんと結婚できて、どれだけ自分が幸せ者かわかってんのか?

俺のククリを毎日あがめて、大切に祀ってるんだろーなっ、ゴラァ!」




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