第22話
――あ。あれっ? 罠は?
メインキャラならば基本全ての罠に掛かっていたはず。
今回は念入りに罠を多めに設置したので普通に入ってくるだけでも危ないはず。
それなのにこの家にたどり着けるなんて……。
不思議に思った俺はなるべく男を視界に入れないようにしながら外を見ると、目に見える罠が全て作動していた。
つまりこの男は全ての罠に掛かった上でここまで来たようだ。
しかも何食わぬ顔をしている。
むしろいい汗をかけたと言わんばかりの笑顔を見せている。
こいつは近づいてはいけないタイプの人種だ。
俺の脳裏がそう警鐘していた。
そっと扉を閉めたかったが、すでに扉はこいつに吹き飛ばされて原型を留めていない。
それすらもこの男の作戦だったのかもしれない。
脳筋のバカと言われているが、案外色々と考えているのか?
「まったく、キミはどうして扉を壊してくるかな。直すのも大変なんだよ」
「す、すまん……」
アーカスはシュンと落ち込んでしまう。
「ほらっ、扉を直して」
「わ、わかった……」
アーカスは大慌てで扉を直そうとする。
ただその馬鹿力で向きが違うにも拘わらず無理やり押し込めようとした結果……。
バキッ。
「あっ……」
「よし」
周りの壁を壊して扉をはめ込んで満足するアーカスだったが、当然ながら壁ごと壊しているために隙間風が酷い。
そもそもはめ込んだだけだと扉が開くわけでもないしそれに……。
ポロッ。
簡単に扉は外れてしまった。
家の被害だけが大きくなっている。
「もう、余計酷くなってるじゃない。もういいからちょっと外で待ってて」
「う、うむ……」
アーカスはトボトボと外へ歩いて行く。
そして、そのまま落とし穴に落ちて、何食わぬ顔で登ってくる。
「えっと、今のが……?」
「うん、ボクが呼んだアーカス。ちょっと体を鍛えることしか考えないバカなんだけど、悪い奴じゃ無いから」
「それはわかるが……」
悪くは無いけど被害は大きいな……。
「それにしてもここ、どうしよう……。応急処置で直るかな?」
マーシャが心配そうに玄関を見ている。
とてもじゃないがそう簡単には直りなさそうである。
「さすがにこれは厳しいかもな」
「ご、ごめん。ボクがアーカスを呼んだばっかりに……」
「いや、これはさすがに読めないことだろう? 仕方ない」
「ううん、アーカスが扉を壊したのは数十回目……」
「それは先に言っておいてくれ」
扉を壊すことがわかっていたならもっと扉を強化していたのに……。
いや、それでもあの筋肉の前だと無駄だったかもしれないな。
「それでどうしてあいつはここまで来たんだ?」
「んーっ、なんでだろう? なんか突然こっちに来るって言い出したんだよ」
不思議そうに首を傾げるマーシャ。
「あの……、リック様。アーくんがさっき物干し竿に……」
「あぁ、あの駄剣か。持っていって良いぞ」
「ち、違いますよ!? あの剣はリック様が持ってこそですよ。そうじゃないです。と、とにかく大変なんですよ」
俺たちはミリアに言われるがまま庭に出る。
するとなぜか聖剣の柄を使って懸垂をしているアーカスの姿があった。
「……なにをしているんだ?」
「見ての通りだ」
いや、見たところでわからない。
一見すると体を鍛えているように見えるが、その姿があまりにもシュールすぎる。
『た、助けてください、勇者様。筋肉が。筋肉が襲ってきますぅ……』
聖剣から必死に助けを求められる。
でも、下手に動かれると被害が大きそうだ。
周囲の罠もすでに原型を留めていないところを見ると原作よりも体が頑丈で、力も強そうだ。
「頑張ってくれ。勇者が鍛えられるまで」
『いやぁぁぁぁ』
聖剣の悲鳴を無視して俺は家の方をどうするか考え始める。
◇◇◇◇◇◇
壊したものは当人達に……。
ということでアーカスとラグーンがなぜか二人で大量の丸太を運んでいた。
「うぐぐっ……、重い……」
「痛めつけることも筋肉にとっては必要な事だ!」
ちょっと直すだけのはずがもはや新しく建て直すのでは、というほどの量になっている。
しかもまだまだ丸太を集めてきている。
――あっ、落ちた。
勇者がひっそりと落とし穴に落ちていた。
するとアーカスがなぜか鼓舞をしている。
「そんな穴から出れなくてどうする!? それでも筋肉がついているのか!?」
「うぐぐっ……」
――暑苦しいな……。水でも掛けたら静かになるかな?
「水掛けたいね」
どうやらマーシャも同意見だったようで、こっそりと水玉を作り、二人にぶつけていた。
「むっ? 筋肉をテカらせたいのか?」
「ちっがーう!!」
「はははっ、効かん効かん」
マーシャが杖で叩くも、アーカスはただ笑っていた。
「がはっ、そ、それよりも俺を助け……、ぶくぶく……」
落とし穴にいたラグーンは必死に顔を水中より出して、なんとか言ってくる。
「大丈夫だ。そのまま這い上がってこい!!」
アーカスが鬼のようなことを言っていた。
しばらくして、なんとか息も絶え絶えになりながら這い出てくるラグーン。
「す、少し休ま……」
「おう、そうだな。そろそろ休憩にするか」
「あ、ありが……」
ようやく人心地つくかと思ったラグーンだったが、なぜか休憩は空気椅子でしていた。
「こ、これは休憩じゃな……」
「なにっ!? これだけじゃ足りないのか? くぅぅ、優秀な弟子ができて嬉しいぞ」
「全然違……、ぐへっ」
ラグーンの両手におもりが持たされる。
その瞬間にラグーンは座り込みそうになるが、アーカスの指導で強制的に立たされる。
「あれだけやれば洗脳は解けるんじゃない?」
「洗脳されてる余裕はなさそうだもんな」
「えっと、ちゃんと後から回復しておくので安心して下さい」
――いや、それは逆に可哀相なんじゃ無いか?
なにせ回復されたらすぐにまた特訓だ、とか言い出しかねないから。
「とはいえ、この木をどうする?」
「せっかくだから大きなおうちを建てますか?」
「ボクも協力するよ」
確かにここにいる面々の協力が得られたら今以上に大きな家が作れるか。
こうして俺は家を大きくしていくことを決めるのだった。
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