第146話

僕が渡したチョコレートを受け取って

パッと笑顔になる君。


・・・


でも、この顔じゃない。

残念ながら僕が思い描いた表情ではなかった。


また"あの子"のことを思い出してしまう。


君は君であって、"あの子"ではない。

自分自身に言い聞かせる。


必死に切なさをかき消し、会話を続ける。



「 お嬢様はこんな安いチョコレート、

食べたことないかと思って。

コインランドリーにぴったりでしょ? 」



『 嬉しい。リョウジ、ありがとう。

食べてもいい? 』



純白な君の笑顔が、さらに僕の心をえぐる。



「 そんな大したものではないけど、どうぞ。 」



割り切らなきゃいけない。

そもそも、君と"あの子"を比べる資格なんて

僕にはない。



『 リョウジも食べなよ。 』



君のその言葉を聞いて、

反射的につい言ってしまう。



「 自分で買ったバレンタインのチョコを

食べるのって—— 。 」



だめだ。

その続きを言ってはいけない。



「 —— 何か新鮮だな。 」



ぐっと堪えた。

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