空っぽ

第97話

次の日から黙々と実家に戻る荷造りを始め、

何も考えないようにする。


5日ほどかけて、ようやく片付けが終わり

荷物を送ったあと、母親に連絡をした。



*****


『 もしもし、ユウミ?どうしたの?

あなたから連絡をくれるなんて珍しい。 』


「 荷造りが終わった。荷物も送りました。

明日帰ります。それからお見合いだけど、

もう話は整っているの?早めにしたい。 」


『 どういう風の吹き回し? 』


嫌なことは早く終わらせたいし、

もう、この運命から逃げられないのなら

いっそ自分からその"運命"というものに

向かっていくことに決めた。


昨日の夜、パソコンに打ち込んだ文章だ。


そんなこと母親には言えないけれど。


「 なんとなくだよ。

私のことを良いって言ってくれる人がいるのならその人と会ってみたいなって。 」


それっぽい言葉を並べる。


『 分かった。すぐにセッティングします。

それより明日帰ってくるのね?

だったらお兄ちゃんも呼ぼうかしら? 』


「 お兄ちゃん、忙しいでしょ。

どうせ帰ってこないよ。別にいい。 」


声かけてみるだけよ、なんて

気分が上がった母親の声が聞こえる。


「 お兄ちゃんは自由で羨ましい。 」


思わず本音が出る。


『 何言ってるの。あなたが一番自由だった

じゃない。ホント、に—— 。 』


私が自由?

どこがよ。

ずっと窮屈な人生だった。

土屋家の操り人形のようだった。


それは今も変わらない。


「 自由なんだったら、私はあんな痛い想い

しなくて済んだと思うけど。 」


『 何?どうしたの。何のこと? 』


思い出して、悲しくなる。


「 いや、何もない。じゃあ明日ね。

お昼過ぎにはそっちに着くようにします。 」


*****



電話を切って、手のひらで目元を覆った。

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