第5話

『ほらほら、おいで』

私たちはいつも会う神社に向かって走っていた。

アヤさんが通る度に、木の上や横から別の妖が顔を出す。

皆がアヤさんに頭を下げたり、憧れの目を向けていて、変な光景。


『俺の名前ね、ハルトって言うんだ。』


契りを交わすなら、とようやく教えてくれた本名。

ハルト、と小さく呟いてみる。名前までも好きになってしまった。

アヤさん、もといハルトさんが鳥居の前で立ち止まる。

いつにもなく真剣な顔で私を覗き込む。

真っ黒な目はとてもきれいで吸い込まれそうなほど。

『もし俺と此処で最後の契約を結んだら、もう人間界には帰って来れないよ』

それでもいい?と私に問いかけるハルトさん。

「ハルトさんと、ずっと一緒なら大丈夫だよ。」

心は迷っていたけれど、私はこの妖と、ハルトさんと一緒にいたい。


ああ、ようやく素直になれた。


私が答えるとハルトさんは、ゆっくり微笑んだように見えた。

綺麗な手がスッとあがり、仮面を取った。

仮面の奥には通った鼻筋と妖艶な目元。

綺麗な紫色をした目は切れ長で、よく見ると私と同じ模様が目の奥に刻まれている。

ハルトさんは仮面を取って妖艶さがより増していた。

私はまたこの妖に惚れ込んでしまったみたいだ。

ハルトさんは綺麗なその細い手で私の手を取って、手首の印に口付けた。

その瞬間淡く光るその印と、伴って鮮やかになるハルトさんの瞳。

妖と人間が2人、手を繋いで鳥居をくぐる。他の妖たちの姿はもうない。

真夏の夜には珍しい驚く程に涼しい風と冷たい空気。

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