第16話 自分以外の配信者たち

・ちょっとした補足

登場人物たちの呼び方について、三人称視点の場合は本名で書くようにしています

(例:田中花子⇒小花、十六夜秋⇒亜希子、雪野冬子⇒冬美など)

ちょっと読んでいてややこしいかもしれませんが、よろしくお願いします!

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「という訳で今日は……突然だけど急遽コラボすることが決まったわっ! お相手は最近何かと話題になっているダンジョン配信者、聖剣女子高生こと田中花子さんよっ!」


「前々から気になってたんだよね~。そしたら何と配信しようと思ってやって来たダンジョンで偶然にも遭遇してしまいました~。誘ってみたら快くオーケーしてくれたので、早速コラボしていこうと思いま~す」


「それじゃあ花子、かもんっ!」


「は、はいぃ! ご、ご紹介にあずかりました田中花子と言います! 今日はなりゆきでコラボさせて貰うことになりました! よ、よろしくお願いします~!」


 秋さんと冬子さんに紹介されてから、改めて自分で自己紹介する。


 だ、大丈夫かな……?


 今二人の配信は見れないけど、急に変な奴が秋冬さんの配信に出来てやがったとか、リスナーさん達に怒られたりしてないかな……!? 


「さっ! それじゃあそろそろ次の階層に行ってみましょうか。花子はもう準備いい?」


「大丈夫ですっ」


「あきちゃん~、私は~?」


「アンタのペースに合わせてたら日が暮れるわよっ。どうせ準備も出来てるんでしょうから、さっさと行くわよっ!」


「はいは~い」


 おぉ~、さすがに息の合ったやり取りというか慣れてる感じがする。


 などと謎の感心をしつつ、二人について下へ続く階段を降りて行く。


 そういえば秋さんも冬子さんもどうしてこんな初心者向けダンジョンに配信に来たんだろう? 聞くところによれば、二人とも配信者だけじゃなくてシーカーとしての実力もかなり高いらしいから今更こんな場所を探索しても面白くないと思うんだけど……

 いや、もしかすると私なんかじゃ想像もつかないような面白い配信をするためにやって来たのかもしれないっ。これは増々勉強させてもらわなくちゃ……!





 小花を後に引き連れた亜希子と冬美は、小花や視聴者に気取られないようにアイコンタクトによる会話を交わしていた。

 親戚として付き合いが長いことや、そうでなくても配信や日常など二人で過ごすことが多いからこそ出来る二人の技なのである。


(何とか花子を配信に誘うことは出来たわ……冬、あとは分かってるわよね?)


(今日のところは顔つなぎに専念して下手に手出ししない、でしょ~? 分かってるよ~。じゃないと偶然を装ってまでここまで来た意味が無いもんね~?)


(そうよっ! 出来ればこの配信の後にご飯とかに誘って、そこでさり気なく聖剣について聞ければ御の字っ!)


 二人が、というか亜希子が自白しているように今日小花と二人が遭遇したのは決して偶然では無かった。

 事前に小花のSNSアカウントをチェックしていた二人は、今日の配信告知が出たるとすぐにこのダンジョンを特定し自分達もそれに合わせるように配信を決行したのだ。小花がギルドで感じた違和感の正体は、それを知って浮足立った彼女たちのファンによるものだったのである。


 そんな思惑を抱きつつ第二階層に到着すると、早速と言わんばかりにこの階層のモンスターが姿を現した。


「名前通りだけど、本当に大きいわね……」


「さすが『ビッグスライム』って感じだね~」


 三人の前に現れたのは第一階層にいたスライムの強化種、ビッグスライム。


 ビッグスライムはその名の通りスライムをそのまま大きくしたような見た目をしている……しかもちょっとやそっと大きくした程度ではない。

 第一階層に出現したスライムがおよそサッカーボールかそれより少し大きいぐらいだったのに対し、ビッグスライムはバランスボールと比べてもよ尚一回りも大きい。小学生ぐらいの子どもなら丸のみにしてしまいそうな大きさのモンスターなのだ。


「お二人はこのダンジョンは初めてなんですか?」


「そうね。スライムしか出ないって聞いてたからあんまり旨みも感じなかったし。というかほとんどのシーカーがこのダンジョンには寄り付かないと思うわよ? むしろなんで花子はこのダンジョンを配信に選んだわけ?」


「えっとぉ……何となく?」


「……ま、まあそういうインスピレーションも大切よねっ! そ、それよりも最初は誰が相手する? このダンジョンじゃないけど私と冬はビッグスライムと戦った経験があるから、まずは花子がやってみる?」


「いいんですか? そ、それじゃあやってみます……!」


 新しく鞘を手に入れたものの、結局背中に背負う形で安定してしまった聖剣を小花が引き抜く。その瞬間、亜希子と冬美の視線は黄金の剣の軌跡を追っていた。


「いきますっ!――」


 そう言うとまだ一体しか集まって来ていないビッグスライムへと駆け出す小花。

 スライムをそのまま大きくしたと言われるだけあって、物理攻撃が効きづらい点や体内の核が弱点などといった特徴は変わっていない。

 それを分かっているから、小花の振る聖剣が次々とビッグスライムに切り傷を増やしていく。しかし身体が分厚くなったせいでますます攻撃が効きづらくなり、なかなか核にまで刃が届いていないようだった。


「だったら!!」


 苦戦を悟った小花はすぐに次の手札を切った。


 聖剣から広がる黄金の輝きが小花の身体を包み込んでいきその身体能力を大幅に強化する。当然それに伴って一撃の威力も上昇し、先ほどまでより深部にまで刃が届くようになる。その状態で数度聖剣を振るうと、ついに聖剣の刃が核を捉え一刀で両断してみせた。


 核を破壊されたビッグスライムは消滅し、小花の勝利という形で決着がつく。


「よしっ! 勝てました~!」


 小花が喜んで視聴者に勝利報告をしている隙に、ここで再び秋冬のアイコンタクト会話が発動するっ!


(今の見た!? 物理攻撃が効きにくいスライム、それもビッグスライム相手に真正面から戦ってたわよ! 何であんな縛りプレイみたいな戦い方……私でも強化無しでビッグスライムの相手なんかしないわよ)


(ちょっとびっくりだよね~。私だったら威力が足らないから魔法で戦うけど~、それにあの身体強もやっぱりあの剣が起点だったね~)


(やっぱりあの剣、普通じゃないわねっ! それで実際に見た感じどうなの?)


(ん~、やっぱり佐久間さんの聖剣にかなり近いと思う。でもあの時見たよりも花子ちゃんの聖剣の方が小さく見えるかな~。聖剣そのものなのか、それとも近い性質を持った別の種類の武器なのかちょっと判断つかないねぇ~)


(ふ~ん、一筋縄じゃいかないわね。素直に答えてくれるか分からないけど、やっぱり直接聞いてみるのが一番良さそうかしら?)


 二人の小花の持つ剣に対する聖剣疑惑はますます深まっていく。


 その時、小花の上げた声に二人は再び意識を現場に集中させる。


「あっ、また出てきましたっ! しかも今度はかなり多いっ!?」


 倒したばかりにも関わらず再び現れたビッグスライム。しかもその数は異常に多くざっと見て十体以上の群れだった。それにに対し小花が戦闘態勢を取ると――しかしここで秋冬の二人が待ったをかけた。


「花子っ! 今度は私達が戦うから花子は一旦下がって見てなさいっ!」


「ビッグスライムは弱点が丸見えだから戦いやすいよね~」


「あ、はい!」


 小花が自分達の元まで下がってくると、今度は秋冬コンビが一歩前に出る。


「念のため教えておくと、私が近接が得意で冬は遠距離が得意なのよっ! 今回は私が半分減らしてから、冬の魔法で残りを殲滅する。いいわねっ、冬!」


「おっけ~、おっけ~」


「相変わらず戦闘中なのに気の抜ける声出してっ――」


 亜希子は腰の両側に差していた二本の剣を抜き、冬美はこれまでは歩く時の杖代わりに使っていた長杖を正面に構える。


「<身体強化><敏捷強化><斬撃強化>……行くわよっ!!!」


「<魔法強化><多重詠唱><詠唱省略>――」


 二人はそれぞれスキルを発動すると――まずは亜希子が飛び出した。


 そのスピードは聖剣による強化を発動した小花よりも速く、ビッグスライムとの距離をあっという間に詰めるとその勢いのまま攻撃を開始した。

 その動きはモンスターの群れの中でまるで激しいダンスを踊っているかのよう。一つの動作をするたびに大きく反りが入った二本の曲剣がビッグスライムの身体を切り裂いていく。ビッグスライムも負けじと亜希子を迎撃しようとするも、そのどれもが空振りさせられ亜希子を捉えるに至らない。

 ものの数分で宣言通り出現したビッグスライムの過半数を倒した亜希子が小花たちの元へ戻って来る。


「あとはよろしく」


「――は~い。すぐ終わらせるね~」


 魔法発動の為の詠唱を行っていた冬美がそれを終わらせるのと、亜希子が戻って来たのはほぼ同時だった。


 次の瞬間、冬美の周囲に細長い針のようなものが複数出現する。その数は向こうに残っているビッグスライムの数と同じ。

 そして冬美が長杖の先端をビッグスライムに向けた瞬間、漂っていた全ての針が射出される。それは狙い違わず全ての核を貫通し破壊、残っていた全てのビッグスライムを一撃で殲滅してみせた。


「す、すごいぃ…………!」


「ま、ビッグスライム程度ならこんなもんよっ!」


「スライムに魔法はよく効くから~、私的にはむしろやり易かったかな~」


 小花は秋冬の戦いを見て同年代にも関わらず自分とは隔絶した実力を持っているように感じた。その目は最初にあった時よりもずっと尊敬を含むキラキラとした眼差しになっている。

 それに気を良くした亜希子はふふんっと胸を張りながらちょっとカッコつけて武器を納める。それをコメント欄でツッコまれたのでカメラの方にギロッと一睨みする一幕があった。


 そうしてお互いの力を確認した一同は、改めて第二階層を進んでいく。

 道中で出現するビッグスライムは三人で交互に倒したり、数が多い時は協力して倒すことで対応してみせた。

 ただ即席で作ったパーティーということや、小花に集団戦の経験が皆無だったこともあって連携らしい連携を取ることは無く。ただ場所や数で区切って戦った感じである。


 そんな調子ではあるものの、探索はとても順調に進んで行きあっという間に第三階層――つまり最終階層へと降りる空間まで辿り着いたのであった。





 ――やっぱり凄いや…………!


 それが秋冬さんと一緒に行動していて感じたことだった。

 モンスターと戦っているときに見せる力はもちろんっ、道中でのトーク力やそればかりに気を取られないでしっかりモンスターの出現を警戒している姿はもはやベテランの風格を漂わせていた!


 ただ参考になるか、と言われると――いやいや参考にならないって訳じゃないのだっ!!

 ただ、今の自分に出来るかって考えると中々難しいな~となってしまった。

 それについて二人に聞いてみると、


「ようは慣れよ、慣れっ! 私だって最初は苦労したけど、やってるとその内をそこまで気を使わなくても出来るようになって来たわ!」


「やってみないことには始まらないよ~。無理そうだからって諦めるんじゃなくて~、出来るようになるまで頑張るのが大事なんじゃないかな~」


「な、なるほどっ……!」


 先輩配信者とのコラボは本当に勉強になることが多い。

 こんなことならもっと積極的に他の配信者さんに声かけてみるべきだったかな? あ、いや、でも私みたいな底辺配信者がコラボしませんか?って誘ったところで誰だお前って断られるのが関の山か……


 ……と、それを嘆いてる場合じゃないっ!


 この二度とないかもしれないコラボで、勉強すべきところや自分に足りない部分を探して吸収しなくちゃいけないんだからっ!


 ――そうしていよいよこのダンジョンの最終階層、第三階層の手前に到着した。


「次でこのダンジョンも最後ね。確か第三階層はボス部屋になってるんだったっけ?」


「そのはずだよ~。広間でボスモンスターが一体、待ち構えてるはず~。ね、花子ちゃん?」


「そうですね。最後に出てくるのはラージスライムといって、ビッグスライムよりも更に大きいスライムらしいです。成人男性よりも大きくて、大の大人を丸呑みに出来そうなぐらいの大きさって書いてありました!」


「……今更だけどビッグとラージって同じ意味よね? それなのにどうしてラージスライムの方が大きいの?」


「厳密には意味のニュアンスとか~、使う場面とかでちょっと違うんだけどね~。まあ、そこら辺はダンジョンならではのいい加減さって感じなのかな~」


「ダンジョンって偶にそういうところあるわよね」


「ありますあります~~」


 私が持ってる聖剣とかも、アイテム鑑定で何だかよく分からない結果が出て来たし。


「――それじゃあそろそろ行きましょうかっ。花子っ、次はあんたがメインで戦いなさいっ! 私達はサポートに回るから。元々一人で攻略するつもりだったんだから自信はあるんでしょ?」


「分かりました、やってやりますっ!!」


 確かに秋冬さんたちだったらきっとラージスライムでもすぐに倒せちゃうもんね。私に気を利かせて譲ってくれたのかもしれない。


 だったらここはしっかり良いとこ見せなくてはっ!!!


 ……それにちょっぴり、二人のリスナーさんが私のチャンネルにも来てくれるといいな~、なんて?


 と、とにかく頑張ろうっ!!


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ここでこの章を終わらるつもりだったのに、書いてるうちになんか長引いてしまいました……という訳で、次で一応この章の最後のつもりです!

毎日投稿をしよう!という意識はあるはずのに、中々現実がそれに追いついてこない。だが私はまだ諦めないっ!! ここから挽回できるはずっ!!


という感じで、また次回の更新をお楽しみに~!


また読んでみて面白い、続きが読みたいと思って下さったら★評価やいいね、感想などを送ってくれると嬉しいです!執筆の励みになります!

(★がもうすぐで100に届きそう! みなさんありがとうございますっ!)

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