底辺ダンジョン配信者の女子高生、聖剣を手に入れる。そして伝説へ――

ミジンコ

1-1章 女子高生、聖剣を手に入れる

第1話 未発見ダンジョンと黄金の剣(前編)

 私は配信者をやっている。それもただの配信者じゃない。今もっとも熱いと言われている『ダンジョン配信者』だ。

  

 何をするかと言われると、文字通りダンジョンをメインとして配信活動をする。例えばダンジョンにはモンスターが出てくるんだけどそれと戦ったり、時々見つける事が出来る宝箱を探し求めたりなどなど…………


 配信のやり方は配信者によってそれぞれだと思う。唯一共通しているのはダンジョンで配信をするという部分ぐらいかな?


 そんなダンジョン配信者に、私はなった。


 始めたのは少し前で、ざっくり2か月ほど前のこと。

 配信はなるべく小まめにやる方がいいと思って、放課後や休日はなるべくするようにしている。元々部活には入ってなかったから、時間的な余裕はそれなりにあったのだ。

  

 そして、この2か月の活動の成果は――――最大同接数が3人、チャンネルの総再生回数は100回にも満たない(配信回数は30回を超えてるのに……)

 同接数0人なんてのは当たり前、1つあたりの動画で10回を超える再生数を出したことは一度も無い。


 ……自分で言うのもなんだけど、底辺配信者といっても差し支えないだろう。


 なんといってもダンジョン配信は社会現象レベルで大人気なのだ。

 ひと昔前に動画配信者というカテゴリーが人気爆発して、ダンジョン配信はそこに油を注ぎ更に大きな炎にした。


 やろうと思えば誰もが自由に配信活動が出来る時代――それが今だ。

 企業に所属するいわゆる企業勢と呼ばれる人達もいれば、私のような個人勢だって国内だけで何万人もいる。


 そんな中で注目されて人気が出るということは、配信の内容や配信者そのものにそれ相応の魅力が無ければならない。

 有象無象に埋没しない輝きが無いと見つけてすらもらえないのだ。

 尚且つ、見つけて貰えたなら他には無い何かでそれを繋ぎ留めなければいけない。


 今になってようやく、そういう部分を実感できるようになった。


 そして自分にそれらがあるかと言われると……あんまり自信は無い、かな……?


 正直、未だにカメラの前に出ると緊張して上手く喋れなくなる時もあるし、探索や戦闘だってそんな華々しい見せ場を作ることも出来ていない。


 始める前に妄想していた、あっという間に人気が出て有名人の仲間入り――なんて展開はそのまま妄想として儚く崩れ去った。


 配信を始めた理由は、ダンジョン探索をやるついでに丁度いいかな?と思ったからだった。


 ……いや、ちょっと誤魔化しました。


 本当は、配信をやってみたいと思ったからです。

 それで有名になって、周りから凄い凄いと言われてみたいと思ったからです……


 最初は何となくミーチューブとかキックチョップの動画を見てるだけだったけど、いつしか自分もあんな風に動画配信で人気になってみたいと思うようになった。

 本当にやるのかどうかも最初はもの凄く葛藤して、いざ始めようと決意したときは絶対にチャンネル登録100万人超えを目指してやる!と心に誓ったりもした。


「はぁ…………」


 私はスマホの画面、自分のチャンネルの管理画面を見ながら溜息を吐く。


 今日はついさっきも配信をしてきたところだ。珍しく同接が2人を記録した瞬間もあったものの、それも一瞬で0人に戻ったけど……

 相も変わらず変動の無いチャンネル登録者数と視聴回数を眺めると最初の情熱は何処へやら、溜息しか出てこなかった。


 あ、ちなみにチャンネル登録者数は0人ね。

 この数字に関しては配信を始めた最初の頃から一度たりとも微動だにしていない。


 取り合えず攻略に成功した小規模なダンジョンの跡地、今はもう何も残っていないその場所を写真に撮ってその場を後にする。


 その足で近くにあったコンビニに行き、配信と探索で火照った身体を冷ますのと自分へのご褒美にアイスを購入する。

 そして少し離れた家の近所の公園のベンチに腰を下ろした。

 配信後のこれは最近のルーティーンみたいなものだ。


 最近は一気に気温が上がって暑くなってきたから、こうして外の木陰でアイスを食べると大変心地いいのだ。


 さっき買った棒アイスをぺろぺろガリガリ食べながら、さっきダンジョン前で撮った写真をダンジョン管理局宛てに送信する。こうすることでそのダンジョンを攻略しましたよ~という証明になるのだ。

 これを怠ると、後でダンジョン管理局からとっても怒られる――らしい。

 もちろん私は大丈夫だけど、最悪の場合はダンジョンに入ることを禁止されてしまうから気を付けなくてはいけない。


 それからSNSの私のミーチューブチャンネルのアカウントから、今日の配信見てくれてありがとう~と呟く。

 

 まあ、見てくれる人もそんなにいないんだけどね…………


 そしてそれらを終えた後、もう一度今日の配信の再生数とチャンネル登録者数をチェックして再び憂鬱になりながらスマホから顔を上げる。


 すると、視界にさっきまで無かったものが映りこんだ。


「ん?」


 公園の端っこの方、薄暗くなってきたのもあってすぐにはその正体が分からなかったけど改めて見て気付く。


「なんでこんなところに……」


 間違いない――ダンジョンだ。


「ここら辺でダンジョンの出現情報なんてあったっけ?――……やっぱり無い。てことはついさっき出来たばっかりってこと?」


 ダンジョン管理局公式アプリには、基本的に確認されている全てのダンジョンの情報が載せられているはず。

 それなのに目の前のダンジョンの情報が無いということは、ここがダンジョン管理局も把握していない未発見のダンジョンだということだ。

 

 こんな住宅街にあるダンジョンを見逃すはずもないし、私が公園にやって来たときには確かにあんなものは無かった。


 ここから考えられるのは、あれが出現したばかりのダンジョンだということだ。


 私はすぐにダンジョン管理局に電話をかけた。

 すると数コールですぐに繋がり女の人の声が聞こえてくる。


『はい、こちらダンジョン管理局です』


「あっ、すみません。今アプリに表示されてないダンジョンを発見しまして……」


『っ!――ご連絡ありがとうございます。至急確認を行いますので、その場所のご住所を教えていただけますか?』


「えっと、○○区の○○◯で――」


 家の近所の公園なので特に何も見ずとも住所はすらすら出てくる。

 キーボードをカチカチ叩く音を聞きながら場所を伝え終えると、少ししてどこか困った様なお姉さんの声が返って来た。


『……こちらではダンジョンの出現を確認できていませんね。失礼ですが、住所とそれがダンジョンだということに間違いはないでしょうか?』


「間違いないと思います。ここ家の近所ですし、資格持ちなのでダンジョン探索の経験もあるので」


『なるほど……』


 確か、ダンジョンの出現は管理局なら探知できるはずだ。 


 何だっけ?ダンジョンが出来るときに発する特殊なエネルギーだか力場だかを検知してるみたいな感じだったと思う。

 でも目の前のダンジョンにはそれが無かったから、電話向こうのお姉さんも困っているという訳か。


 そう言われると、何だか自分の目が怪しく思えてくる……


「……あの、もしよければ私が中に入って様子を見てきましょうか?」


『それは……推奨できかねます。こちらで確認できない以上、そのダンジョンの危険度は不明です。こちらから人員を派遣しますので、暫くお待ちください』


「あ、はい。分かりました」


 ベンチに座りながら、管理局の人がやって来るのを待つこと……約1時間。


「……もしかして、忘れられてる?」


 元々夕方になりかけの時間だったこともあって、辺りはかなり暗くなっていた。

 アイスなんてとっくに食べ終わってるし、暇だったから人気ダンジョン配信者の配信を見て勉強したりしてた。


 ……一応、向こうにこの場所の住所は伝えてるから帰ってもいいかな?

 

 というかそろそろ帰らないと、家族が心配してしまう。


 通報者の責任かなと思って待ってようと思ったけど、もしかするといきなりのことだったから今日中には来ないのかもしれない。明日の朝市で来てくれる可能性だってある。


「でも、このまま放置するのもなぁ…………よしっ」


 私は、そのダンジョンに入ってみることに決めた。


 やっぱりこんな場所に未確認のダンジョンらしきものがあるのは危険だし、せめて様子を見てくるぐらいのことはしておきたい。

 それから後で一度家に帰って鈴蘭テープか何かを持ってきて立ち入り禁止って感じにしておけばいいだろう。


 もちろんお姉さんが言っていた通りこのダンジョンについての情報は一切無いから、本当に軽く見てくる程度に留めるつもりだ。

 これでも2か月近くも1人でダンジョン配信をしているのだ。安全マージンを取ることぐらい考えてる。


「それじゃあ――『換装』っと」


 私の放った言葉にスマホが反応して、音声認識で組み込まれた機能が発動する。

 

 すると一瞬で、さっきまでどこにでもいるような普通の女の子のようだった私の服装が、ダンジョンに潜るための防具や武器を身に着けた状態に変化した。


 ――――これこそ現代の最新技術によって作られた換装システムである!


 特定機種のスマホのみに搭載された機能で、御覧の通り一瞬で普段着から戦闘服へと着替えることが出来る。その逆もまた然りだ。


 ダンジョン配信を始めるため、このスマホを買おうとどれだけバイトを頑張ったことか……!


 私のやる気を見た両親は誕生日にこれを買おうかと言ってくれたけどそれは断った。やっぱり自分で買った物の方が愛着が湧くし、何よりその方が簡単に配信者を辞めようなんてならないだろうと思ったから。


 ある意味、私なりのけじめであり覚悟の証がこの端末なのだ。


 ちなみに今の私の装備は、青色をベースとした皮鎧だ。鎧の素材に使われているのは、ブルーリザードというトカゲのモンスターの皮。初心者の私には十分過ぎるほどの代物だ。


 実は親戚に配信者じゃないんだけどダンジョン探索をしている人がいて、どこからか私の話を聞いておさがりを持ってきてくれたのだ。

 もし装備を買うことになっていたら、今もまだバイト漬けの日々を送っていただろうからお姉ちゃんには本当に感謝しかない。昔から何かと良くしてくれたし、いつか何かの形で恩返しがしたいと思っている。


「よし。行きますかっ!」


 身体と心に気合いを入れてから、いざダンジョンに突入する。

 

 入った先は、どこかの古代遺跡のような場所だった。


 文明の気配を感じさせる石柱などには植物の蔦やコケが生えていて、長い時間誰の手も入っていないことを窺わせる。そしてひんやりと、またじめっとした空気が洞窟の中にいるような雰囲気を感じさせた。


「なるほど、こんな感じのダンジョンなんだ……あ、折角だから配信しとくか。バッテリー大丈夫かな?」


 私はリュックに入れていた配信用の小型ドローンを取り出す。確かさっきの配信が終わってチェックした時は半分ぐらいあったような記憶があるんだけど……あ、あと30%ぐらいしか残ってない。


「しまった……今日は予備バッテリーも持ってきてないし残り30%てことは――様子見ぐらいの時間なら持ちそうかな?」


 早速ドローンを起動してスマホと同期させて配信を開始する。


「みなさ~ん、こんにちは~! 田中花子、本日二度目の配信です~!」

 

 『田中花子たなか はなこ』というのは私の配信者としての偽名である。ちなみに本名は『小花こはな』なので、あながち遠い訳でもないのだ。何せ逆から読んだだけだしね。


「本当は配信する予定は無かったんですけど、実は家に帰る途中に未発見らしき?ダンジョンを発見したのでちょっとだけ覗いて行こうと思います。攻略を目指すんじゃなくて、様子見のつもりです! 長くても一時間ぐらいの配信になると思います。それじゃあ、進んでいきますね!」

 

 ……同接は当然0人のまま。


 もしかしたら始まったと同時に沢山の視聴者が、なんて思ったけどやっぱり現実はそんなに甘くないようだ。


「どことなく神聖な雰囲気を感じる場所ですね~。というかモンスターの影すら見えないんですけど、こんなこと初めてです……」


 基本的にダンジョンといえばモンスターの巣窟になっている場合がほとんどだ。

 だからダンジョンに入った途端に戦闘になったり、そうでなくとも少しあるけばモンスターに遭遇するのが普通なのだ。


 けれど、ダンジョン入ってからこの開けた空間にも関わらずモンスターの影すら見ることが出来ていない。


「もしかすると、潜伏が得意なモンスターかもしれないので慎重に行きますね……」


 今はダンジョンに入って真っ直ぐ正面に進んでいるところだ。


 何となく、そっちに進めと言われているような造りになっている気がする。


「ここは……どういうダンジョンなんですかね~? 私がこれまで潜って来たのは洞窟迷路型の王道タイプが多かったので、ドキドキ半分、ワクワク半分って感じです」


 そんな風に視聴者とやりとり(今はいないためほぼ独り言)をしていると、ピコンと視聴者を現わす人数が0から1に変化した。


「あ、こんにちは~! 今初見のダンジョンに潜っているところです~!」


『君、何でこんな時に呑気に配信なんてやってんの!?』


「へっ!?」


 ふらりと現れた視聴者に、突然そんなコメントを打たれてビックリする。

 

 な、何か不味いことしちゃったっけ……? やっぱり管理局のお姉さんの言葉を無視して、未発見ダンジョンに潜ったのが良くなかったかな!? あれでもこんな時って書いてあるしやっぱり違う? え、でもこんな時ってどんな時なの!?――


 などと混乱していると、再びコメントが打ち込まれる。


『え、まさか知らない?』


「す、すみません!!」


『ちょっとニュースとかチェックしてごらん。それですぐに分かると思うから』


「わ、分かりました~」


 端末を起動して、取り合えずニュースアプリを確認する。

 するとその一番上にでかでかと速報と題された1つのニュースが目に飛び込んできた。


「だ、大規模ダンジョンハザードの発生ぃ!!?」


『本当に知らなかったんだ……』


「あの、私通知が来るの苦手で基本的に全部オフにしてるんです。なので全然気付かなくて、あ。速報とかも流れたんだ――うわぁ!? しかもここから結構近い!!?」


 そっか!それで管理局の人が来なかったんだ!


 こっちに構っている場合じゃなかったからっ!


『悪いこと言わないから、早く脱出した方がいいと思う。ダンジョンハザードの影響でそのダンジョンも何が起こるが分からないし』


「そ、そうですよね! 分かりました、今すぐ脱出します!…………」


『何で固まってんの?』


「えっと、その…………私このダンジョン初見なので、出口が分からなくて……」


『はぁ!?!?』


「ひぃぃ~~、すみませんー!!」


 外が大変なことになってる中、私はダンジョン脱出を目指すことになった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

キリの良い所まで進めたいので、本日はもう1話更新します!

書いていたら思ったよりも長くなってしまったので、2話に分割することにしました……


という訳で次の更新は16時になるので、お楽しみに!!

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