第91話



「何もないところからダンジョンが生まれるわけではなくてね。どこかで何かが変わったはず。その変化を見極めることが重要なのだよ」


 ダンジョン、か。

 俺も生まれた時からあったから、もうそういうものだと受け入れていた。

 ……でも、実際、どんな理由があって、なぜそれがそこに出現したのかは分からない。

 第一、これまでダンジョンはすべて100階層とキリが良かった。

 それだって、本来ならばおかしな話だ。


 もっと多い階層や少ない階層があったっていいはずだ。

 ……神野町ダンジョンは、そんな他のダンジョンとは違っている。

 だからこそ、その存在が中々信じられなかった。……いやまあ、俺が原因かもしれないが。

 異世界や宇宙からの侵略者という言葉を使うのであれば、確かにあの神野町ダンジョンは様々なものを隠すのに適している。






 それから、数日が経過した。

 無事、俺と凛の調査の護衛申請も終わり、明日から俺たちは神野町ダンジョンへと潜ることになる。


 夜の静けさが家の中を包み込む中、俺はスマホを手にして画面をぼんやりと眺めていた。明日のダンジョン調査に向けた準備は整っているものの……なんだろう、少し興奮していた。

 桐生さんの言葉が頭を巡っていた。

 金色の髪の少女、か。

 本当に、いたのだろうか?

 ……少し、疑ってしまう部分はあったけど、それは良くないだろう。


 窓の外を見ると、冷たい月明かりが薄暗い部屋を静かに照らしていた。俺は深く息を吸い、明日に向けて心を落ち着けようと努力した。



 ここ最近は活性化も落ち着いていて、俺としては久しぶりのダンジョンという感じだ。

 俺たちは早乙女さんの部屋に集まり、朝食を囲んでいた。テーブルの上には、由奈が用意してくれた簡単なサンドイッチが並んでいる。香ばしいパンの匂いが、部屋の冷たい空気を優しく包み込んでいた。

 そんな中、昨日から部屋に泊まっていたという凛はどこか緊張した様子でサンドイッチを口に運んでいた。

 凛と早乙女さんの二人で昨日の夜は過ごしたようだが、この二人がどんな話をするのかは少し気になっていた。


「神野町ダンジョン……魔石五つ持ちがバンバン出てくるダンジョン」

「そうだな。まあでも、凛なら冷静に立ち回れば何とかなると思うぞ?」

「……だとしても、緊張する。……ダンジョン攻略の日は、いつもそう」


 今日はダンジョンを攻略しに向かうわけではないが、凛からすれば同じような感じなんだろう。

 凛が控えめな声で呟き、手にしたサンドイッチを見つめているが、あまり元気はない。

 ダンジョン攻略、か。俺は……攻略したことないが、何度やっても慣れるものではないのだろうか?

 俺も、初めてダンジョンへと入った時には緊張したものだ。

 Sランク探索者ならば一人でダンジョン攻略するのが普通というのが、常識だ。というか、探索者の数が少なく、無駄な戦力を回している余裕がないとも言えるが。



「朝食はちゃんと食べとけ。しばらくは、現地調達で食事をすることになるから……体力が持たないぞ」

「う、うん…………あっ……そ、その……ちょっと緊張してうまくたべられなくて……た、食べさせてもらってもいい?」


 サンドイッチをこちらに向けてきた。

 果たして、それで食べられるようになるのだろうかという疑問はあったが、俺は彼女の食べかけのサンドイッチを受け取って凛の方に差し出すと、彼女は顔を少し赤くしながら小さく齧った。


 その様子はまるで小動物みたいで、少し可愛らしい。

 ……餌やりでもしている気分であったが、そんなことを口にしたら凛が怒るかもしれないので、内心で留めておく。


 一方で、早乙女さんは隣で豪快にサンドイッチを頬張りながらタブレットをいじっていた。

 彼女の目はキラキラと輝いている。これから始まる調査に対する興奮を隠しくれないといった様子だ。


「やっぱり神野町ダンジョンは奥が深いね……前回の調査で分かったデータを基にしても、明らかに出現する魔物のランクが高いようだし……桐生の配信で見たが、植物なども多く存在しているようだし……あぁ! 楽しみで仕方ないね!」


 彼女は口を動かすのも忘れそうな勢いでタブレットを操作している。

 まあ、楽しそうなのはいいことだ。俺は目を細めながら彼女に声をかけた。


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