第15話

「あなた、今日は、一緒に帰れるの?」


 お昼にお弁当を食べているとき、園山さんが聞いてきた。

 最近のお昼ご飯メンバーは、園山さん、陽田、四十四田さん、ぼく、このようになっております。

 もう誰が増えていても動じない自信がついてきました。


「え、今日ですか。そうだな……うん、大丈夫だよ。」

「じゃあ、この前のゲームについて教えて。」


 歴史研究会御用達のゲーム、ウォー・シミュレーション・ゲームか。

 勉強熱心なことはいいことだよ。

 どういうことをすればいいか分かっておけば、部長さんとも遊べるし。


「分かった。じゃあ、放課後までに備品を借りておくよ。」


 高須部長に了解をもらって、借りておけばいいだろう。


「なんか、楽しそうな話し?」


 四十四田さんがぼくたちの話を聞いて、加わってきた。

(そもそも、黙々と食べていたわけでもないが)


「歴史研究会でやってるゲームについて教えることになってるんだ。」

「へー、ゲームなんてやってんの?歴史研究会なのに?」


 四十四田さんのその疑問はもっともだよ。

 ぼくも勧誘されるがままに入ってみて、かなり驚いたからね。


「歴史に関するゲームなんだ。」


 内容的には間違いではない。

 ただ、正確に伝えているとも限らないが……。

 なんか、無表情のまま、園山さんも頷いている。


「へー、なんか難しそーだね。」

「面白いんだけど……簡単ではないね。だから園山さんに教えることになったんだ。」


 園山さんがなんかもぐもぐしながらピースサイン出してる。

 四十四田さんがなんか笑顔で園山さんを見ていた。かわいいなこの子とか思ってるんだろう。

 ……まあ、こういう園山さんも可愛いけど……。


「あ、場所はどうしよう……。」

「どんな感じでやるの?広いところが必要な感じ?」

「ええと、机くらいのマップを広げて遊ぶんだ。」

「じゃあ、テーブルがあって、自由に使えたらいいんだよね。」


四十四田さんがぼくの意図を汲んで質問してくれたようだ。

そのとおり、テーブルがないとどうしようもない。


「うん、そうだね。でもファミレスとかだと迷惑かけちゃうし。」

「じゃあさ、カラオケでやったらどう?何してても文句言われないよ?」


 カラオケなら、べつに歌わずにゲームをやってても文句は言われないか。

いいアイディアかも。


「それいいね、じゃカラオケボックスに行こうか。」

「やったー、カラオケだ!!」


 え、四十四田さんがなんか喜び始めた。


「お、カラオケ行くのか。久しぶりだな。」


 え、なんか陽田ものってきた。

 しかし、園山さんとふたりきりってのも気まずいから、みんなに来てもらった方がいいかもな。


「あなたのお弁当のシュウマイと、私のほうれん草を交換しましょう。」

「え。」


 ぼくのシュウマイが消失して、ほうれん草のおひたしが鎮座していた。

 美味しいから……いいけど……。マイペースすぎるだろ。


「それも風香ちゃんが作ったやつだよ。」

「かすりちゃん。」

「……なんで誰が作ったか知ってんの?」


 ------------


 そして、約束されし放課後がやってきた。


「よし行くぞー!ものどもーー!!」

「「おーーー!!!」」

「……おー。」


 相変わらずのテンションの高さ!そして四十四田さんのコミュ力の高さよ。

 いつものメンバーが勢ぞろいして、駅前のカラオケボックスに行く。


「キミたち、カラオケはよく行くのー?」

「俺は部活のダチとかと時々行くぜ。」


 陽田はなんでぼくの友達をやってるのかよくわからないくらいちゃんとした友人がいるからな。

 いや、時々繰り出してくるトンチキなアイディアをぼくにやらしてることを考えると、まともとは言えないかもしれない。


「私は……。」

「風香ちゃんは私と時々行くよね。」

「そうですね。あまり歌は得意じゃないのですけれど。」


 園山さんの交友関係は、最近までよくわからなかったけど、どうにも四十四田さんが中心になって構成されているようだな、ということは分かってきた。

 自分から誘ったりするより、四十四田さんに誘われてなにかに参加するタイプ。

 別に話しするのが苦手っていう感じではないんだけど、人には得意不得意があるから、積極的ではないのだろう。

 多分。


「ぼくは……。」

「お、ここだよ、カラオケまちがいねこ。」


 マップを素早く移動することで、ぼくのコメントをカットしたね……。

 いや、一緒に歩いてきたんだけどさ。


 四十四田さんが受付をしてくれて、4人で部屋に入る。

 おー、く、暗い。

 カラオケルームって入ると最初暗くてびっくりするよね。ぼくだけ?

 四十四田さんがスイッチを入れてくれたので、明るくなった。


「じゃあ、ドリンクもってくるねん!」

「行ってきます。」


 四十四田さんと園山さんが全員分のカップを持って出ていった。

二人が出ていくところを確認すると、陽田が話しかけてきた。


「お前、最近、園山さんとはどうなんだ。」

「どうもこうもないよ。」


 どうもこうもなかった。お昼は一緒だし、放課後は一緒に帰ってるし、なんだったら部活にもついてきた。そして、歴史研究会に入部した。

 言ってみれば、すべてが謎。謎は依然として存在し続けているんだ。


「なんか、歴史研究会に入部することになった。」

「へえ、あの、どこのクラブにも入らないっていうので話題になってた園山さんがね。」

「なんか、ぼくの部活についてきて、決めたんだよね。これってどういうことなんだろう。フッた相手の部活に入るってどうなの?」


 このくだりが入るのは随分久しぶりだから、諸君らはもう記憶の彼方に飛ばしてるかもしれないので言うが、ぼくは園山さんに交際してくれと告白してフラレているからね。


「ふうん、まあ、別にいいんじゃないの。仲が悪くなったわけじゃないだろ。」

「そうかなあ。」


 喧嘩してるよりは、そりゃまあいいかもしれない。

 そんなことを話していたら、四十四田さんと園山さんが戻ってきた。


「はいはーい。持ってきたよー、頭を垂れて感謝してよねー。」


 四十四田さんと園山さんがカップをテーブルに置いていく。

 四十四田さんは、乳酸菌飲料。陽田の前に置かれたのは、コーラ。

 園山さんが持ってきたのは、アイス・ティー。


 そして、ぼくの前に置かれたのは、オニオンスープ


「なんでぼくだけあったかいスープなんだよ!!」

「おいしいので。」

「園山さんチョイスなの!?」

「嬉しそうに選んでたよ!」

「どういうタイプの喜びなんだよ!!これで驚かせようなのか、これだとウケるぞなのか!!」

「ぶい。」


 ぶいじゃないよ。何に対する勝利なんだ。

 もういい!オニオンスープで!


「じゃあ、ゲームやろうか。」


 ぼくはマップをひろげてコマをならべはじめた。

 園山さんが手を握ってぼくの準備している様子を眺めている(ちなみにいつもの無表情だ)

 今度から手伝ってもらえるようにしないとな。そしたら準備も早いし。


「これって何人で遊ぶの?」

「え、二人だけど。」

「そうなんだ!!じゃあ、私は歌うね。」


 え、歌うね?


「何にしようかな。あーけーびー48万とかにしようかな。」

「え。」


 いや、そうだね、カラオケだから。


「じゃあ、俺は、大嵐にしよう。」


 いや、まあ、そうだね、カラオケだから……。


「じゃあ、ぼくの先攻で始めるね。ユニットを動かすよ。」

「はい。」


 アフリカの大地(を表したマップ)の上を疾走しはじめるぼくの戦車軍団。

 そして……。


「ガンガンなーーってるみゅーーーーじーーーっっくーーーーー!!」


 あああああああああ。

 なんか、めちゃくちゃ歌が入ってきてるううううう。


「じゃあ、私の番ね。」


 マップの北側からぼくの戦車軍団を押さえようと進撃してくる園山さんの戦車部隊。


「じゃあ、攻撃……判定……。」

「あらっしーーーあらっしーーー!!」

「あああああああ!!!!」


 全然、ゲームどころじゃない!!!

 ちょっと考えたらわかるじゃん!四人でカラオケに来て、じゃあシミュレーション・ゲームやろうって感じの空気になるわけないじゃん!!二人しか遊べないゲーム持ってくるって!!!!アホか!!!ぼく!!!!


「あなたのⅣ号戦車を撃破しました。」


 ごめん、もういいよ。


 ぼくは飲み物を飲もうとカップに口をつける。


「あっつ!!」

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