キルケニー

  一日前


 TAKIDAのワンボックス・マクシムスが着陸したのは、ニュー・グンタマのカスカベだった。平らな地面にソーラーパネルを敷き詰めた発電畑──そんなかつての残骸が、どこまでも広がっている。


 一体、どこに貸し倉庫?


 ワンボックスを降りたシノは、辺りを見渡した。

 元発電畑ということもあって、視界を遮る大きな建物は無い。

 というか、むしろ無さ過ぎるのだ。


 唯一、構造物ストラクチャらしきものは、崩れかかった納屋のようなもの──


 ──まさか、これじゃないよな? と思っていると、予想が的中。


「こっちです」とソウナが、それへと向かって行く。

 仕方なく後を追うと、納屋の中は半分以上が潰れていて、二人で立っているだけでも窮屈だった。


「──あのさ、ソウナ。私の勘違いかもだけど──大丈夫?」

 そう声をかけるが、相手は思考をどこかへ飛ばしているのか、あるいは聞きたくないのか無反応。沈黙に堪え兼ね、納屋を出ようとすると、床からちょっとした地響きの音。


「地上はカモフラージュ。さ、ついて来て下さい」

 ソウナは言い、ぽっかりと開いた地下へと続く穴に姿を消す。

 一瞬でも疑った自分を恥じつつ、シノは目の前の階段を降って行った。

 


 その地下空間は三つの区画に別れ、倉庫というより、まるでシェルターだった。

 食糧庫、武器庫、そして技術医師テック・ドクターのラボを思わせる機械身体の保管場。


 旧型から最新モデルまで、幾つもの身体が保存容器ボディ・バッグの中で眠っている。

 これだけのものを集めるのに、一体幾らの新・仮想¥ニュー・デジタルイェンが費やされたのだろう。

 組織からの離脱──あるいは不測の事態に備え、ソウナが蓄えた装備と設備。

 自分には無いその用意周到さに、頭が下がる思いだった。


「どれにします? 好きなのを選んで良いですよ?」


 居並んだ保管容器ボディ・バックを前に、ソウナが言う。

「え! ホントに良いの?」

 そうは言いつつも、一目見た瞬間からこれはスゴイ! と感じたものがあった。


 ANZAIの猫型身体キャット・ボディ、「キルケニー」。


 やや古いモデルだが、そのボディバランスは最高で、尻尾の取り回し性能は今なお群を抜いている。


 まだ「これが良い」と声も発していなかった。

 が、シノの視線は余程に露骨だったらしい。

「一番高いのを選びますね。まあ、そうだろうと思ってたけど──」

 ちょっとだけ悔しそうに、ソウナが笑った。



 まるで棺桶のような手術台テック・デッキに、シノは全裸で横たわった。

 ソウナの話では、ここにはたくさんの種類の顔がないので、没個性的なものになるが許して欲しい、とのこと。

 その実に簡潔な説明を聞きながら、ふとソウナに手術テックの経験があるのか疑問が浮かぶ。


「ああ。勿論、無いですよ。でも大丈夫。機械が全部やってくれるから。念のため、シノの掛かり付けだったサイバー・ホスピタルから、医療記録も引っ張ってきたし──」


 そういえばこうして手術台テック・デッキに寝そべるのは、ヨシローの病院以来だった。

 突然制御を奪われ、避けようにも避けられず、手に掛けてしまった──

 あのときの光景が目に浮かび、少しだけ気分が悪くなってくる。


「──不安ですか? なんなら、意識を保ったまま手術もできるけど?」

 棺の上から覗き込むようにして、ソウナが言う。

 さすがに自分の脳や脊椎が、肉体から切り離される瞬間は見たくない。


「遠慮しとく。一思いにやって」


 シノは意を決し、制御系を手放した。



  *



 外部から何かが流れ込んだ、前回の手術──

 残念ながら今回も、それは起こった。ただし、制御系を乗っ取られたのではない。


 淡い眠りの中で見るような夢──あるいは、弾けるような感情だ。


 移動式自販機モビル・ジハンキーに対する強盗。

 機械の身体への憧れ。

 仲間の少女たちとサイボーグ・ヤクザ──


 それは誰かの体験であり、また人生だった。


 目が覚めたとき、シノは自分が軍用サイボーグの身体に改造されたと錯覚した。

「騙された!」「利用された!」

 頭の中では未だそんな感情が渦巻いていたが、実際の身体を見、ようやく勘違いだと理解する。


 自動的に開いた棺の蓋──

 ゆっくりと身体を起こすと、隣で同じく手術テックを受けていたソウナと目が合った。


 お互いに、言葉はなかった。

 けれどもその表情で、ソウナも同じ夢を見たのだと解った。


 夢の中で得た情報に早速、複数のスキャンを掛けながら、シノは新しい身体ボディについて、率直な意見を述べた。


「──ねえ。てゆうかこの身体、ちょっと胸がデカ過ぎじゃない?」

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