第51話 スカウト
「……ふざけんなよあのクソドラゴン」
俺はてっきり最大火力のとんでもない技が繰り出されると思っていたのだが……デビルドラゴンの胸の水晶が輝いてからの行動は、単なる自爆だった。勝てないと思ってしまったのか、それとも俺たちを道連れにしてやろうと考えていたのか……はたまたそんな知性もなく本能的に自爆がもっとも有効な攻撃手段だと考えたか。とにかく、胸の水晶と共にデビルドラゴンは絶命した。光で目が眩んだのに絶命したと断言できる理由は、そこら辺に散らばっているデビルドラゴンの肉塊たちのお陰だ。サラサラと塵になり始めているが……実にくだらないことをしてくれたものだ。
「大丈夫か?」
「……ごめん、なさい」
まぁ……正直、何かしらの理由があって近くにいるとは思ってた。まさかそれが金の為とは思わなかったが……どうやら遊ぶ金欲しさって訳でもないようだし、俺はそこまで気にしていない。まぁ……マジで殴ってやろうかと思ったことは何回かあるけれども。
「はぁ……想定より遥かに時間を使わされたし、想定より遥かに疲れたし……マジで今回はいいことが何もなかったな」
「……私の、せいですよね」
「まあそうとも言う」
どれだけ取り繕っても特に変わらないから言うけど、柊さんのせいで疲れたってのは割と本当の話。ただ、想定以上に敵がストックを溜めていたせいでこちらもかなり苦戦してしまっている……そういう意味では柊さんの影響ってのはそれほど大きくない。だから俺はあんまり気にならないけど……やっていたことは寄生行為に他ならない訳だな。
「……なんで金が必要なのかとか、俺は聞くつもりはないからな」
「え?」
「他人の事情に深く介入してまでなんか言うつもりなんてないし、やっぱりダンジョンは1人で行った方が絶対にいいってことだけはわかった」
「あ……そ、そう、ですね?」
「別に全部が柊さんのせいだなんて言うつもりはないよ……そもそも、他人と歩幅を合わせて歩けるような性格してない俺が悪い所もあるんだしな」
日本人らしくない、協調性のない人間が俺だ。柊さん1人でどうこうなるほど、俺は他人に影響されやすい人間だと思っていないし。
「さ……帰りましょう。こんなところでぼーっとしててもなんにもなりませんよ」
「そう、ですね……」
成り行きをずっと見守っていてくれたハナとイザベラにもちらっと視線を向けて帰ろうと促そうとしたら、ハナがイザベラの身体を必死に押し留めていた。どうやら、イザベラは柊さんに言いたいことが山のようにあったらしいが、ハナが俺の気持ちを汲んで止めてくれていたらしい。
地上に出てさっさと学園の寮に戻ろうとした俺の前に、1人の男性が現れた。単純に通行の邪魔をしてしまったかなぐらいに思って避けようとした俺の行く手を阻み、こちらを見下ろしてくる。190㎝はありそうな巨体に少し圧倒されてしまうが……寮の門限がそろそろ近いのでさっさと帰りたいんだが。
「なんですか?」
「……今岡俊介、だな?」
「そうですけど」
「そう警戒してないでくれ」
「それを本気で言ってるなら自分が今やっている行為の圧力を自覚するべきだと思うんですけど、そこら辺はどうなんですかね?」
「まぁ……確かに俺は顔が怖いとは良く言われるからな」
「そこじゃないんですけど」
なんだあ……このおっさん。
帽子を取って出て来たおっさんの髪は銀色と表現できるほど美しく、そしてこちらに向けられた瞳は碧の輝きを放っていた。
「日本人じゃない?」
「始めまして……俺は一応、国際機関に所属している
「国際警察かなにかですか?」
「いや、日本語で言うなら国際召喚士機関……という感じかな?」
国際組織……つまり、稲村先生が所属していたような場所ってことか?
「その国際組織さんが俺になにか用ですか?」
「君をスカウトしに来た……日本で冷遇されていると、ある情報筋から聞いていね」
「へぇ……まぁ、完全に間違った情報とも言えないですね。冷遇されていたってよりは敵対していたって表現の方がより正しいと思いますが」
「……我々が聞いていたよりも君の扱いは悪かったようだね。なら、猶更こちらにとって都合がいいのだが……どうかな? 国際組織に所属するつもりは?」
「俺、16の子供ですよ?」
「問題ない。そこら辺は色々と考えてある」
結構本気のスカウトらしいな……どうやら口だけじゃないし、俺を1人の召喚士として雇おうって感じの声のかけ方だ。それだけで割と俺からの好感度は高いんだが……この国際機関とやらが何処まで俺のことを把握しているのか、それを知っておきたいな。
「俺に目を付けた理由は?」
「最年少の免許取得者だと聞いてね」
「……え? そうなんですか?」
「あぁ……日本では君の16歳での免許取得が最速の記録となっている。勿論、同率は何人かいるが……高校1年生での取得者は君が初めてだ」
「なるほど……俺がそれだけ才能のある人間だと認識したから?」
「君が聞きたいのはこちらが君を引き入れようと思った理由だろう? 勿論、理由は君が特別な召喚魔法を使うからだ。まさかそれ以外に大きな理由があるなんて、君も考えていないだろう」
まぁ……うん……知ってたけどさ。なんとなく、魔法がすごいだけでお前は別にすごくないんだよみたいな言い方されると、こっちも高校生のガキだから流石にムカッと来るわけで……言葉をもう少し選んで俺のことを乗せてくれないかなとか思っちゃったけどね。
「俺、スカウトされて特別なことをやらされるんですか?」
「いや、君が高校を卒業するまではそこまで重要ななにかを任せようなんて話にはなっていない。ただ……君が国で冷遇されているのならば先に手を伸ばしておこうという考えだ」
「なるほど……国を見限って国際的な召喚士にならなってくれるかもしれないと」
「そうだ」
そこを肯定しちゃうのかよ。
「言っておきますけど、俺はこの国の協会が嫌いなだけで、別に国そのものは嫌いじゃないですからね?」
「わかっているとも。俺とて母国は大切に思っている……だが、それとこれは別だ」
「俺にも分けて考えろと?」
「そうも言っていない。俺は単純に母国と組織だったら組織を選ぶだけで、組織内には母国を選ぶ人間も多い……稲村とかも、そうだな」
稲村先生がね……まあ、そうでもなければ組織を出てあんな学園で教師なんてやってないか。
「わかりました。少しだけお話を聞かせてください……明日以降でよければ」
「問題ない。元々、君との交渉にはかなりの時間を使うつもりだったからな」
俺……そんな気難しい奴だと思われてる?
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