ときめいたのは

第10話


無意識






時々、時々ではなく割と仕事中頻繁に考えてしまうのだけれど。




「お前これ何回目だ?」



「さん、かいめっすかね…?」



「4回目だ阿呆」




目を釣り上げて今にも舌打ちをしそうな上司兼彼氏を見るとなんで付き合ったっけ、と考えることがある。



考えることがあるっていうか割と3日に1回は不思議に思ってることなんだけれども。




「今日中に修正」



「今日中に、修正」



「初めて聞いた言葉みたいな反応してんな。やれ」



「ガンバリマス」





片言になる人を一瞥もせず次の企画書のチェックに入る課長は、と黙っていればとても端正な顔をしていると思う。




ただ本当に端正な顔をしているだけで普段の鬼具合からそれは帳消しになっている。



あたしが入社した時には既に主任だったし管理職の人の顔が整ってるな、と一瞬ときめいたりしたけれども。





「あ?」



「スンマセン!」





眉を釣り上げて低い声を出す鬼の姿にあっという間にそのときめきは取り消しを行った。




すぐ怒る人、優しくない人と勝手にやな人ランキング1位に君臨させていた。



このランキングは会社内の話であればまだ1位である。





そんな鬼を意識、というか避けていた上司が気になる人になったのはいつだったか。



「そういえば」



入って2年位経った時期だったかと、企画書の為の資料を纏めながら頭の片隅で思い出す。





「半分は下心ってやつだ。意識しとけよ」



「は、い?」







したり顔で笑う鬼みたいな人に2回目のときめきを覚えてしまったあの時を。

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