第10話 突撃インタビュー
「なぜここに人間が!」
魔王の前にいるが四天王よりも緊張感はない。それは魔王が弱そうだからではない、むしろ巨大な体は強さを象徴しているようなのだが俺に戦闘の意思がないおかげで恐怖心はない。今回は戦いではなくインタビューに来たのだ、俺の中での魔王というものが確立していないので本物の魔王からなにか作品に活かすことができるものがあるならありがたく使わせてもらおうという算段。
「師匠、魔王に取材したいんですけどなんとかなりませんか?」
「身動きを取れないようにして、素直に喋る状態にすれば問題ないね」
「さすが!ありがとうございます!」
師匠の指パッチンで魔王は正座する。
「なんだこれは!人間風情がこの我になにをした!」
四天王以上の力をもつ魔王がものすごい声量で威圧してくるが恐怖はあまり感じない。恐らく、いや確定で魔王より強いやつが動きを止めているのもあるが俺に戦闘の意思がないのが一番の要因だ。
「あなたの野望ってなんですか?」
絶対に答えないと言いたげに口を閉ざすが師匠の力に敵わず驚きの表情をしながら答えてくれる。
「我以外の二人の魔王を滅ぼし、人間も根絶やしにし世界を征服することだ」
「あなたはどれくらい強いんですか?」
「我が軍の話なら我とその他で戦っても我が勝つ」
俺がそこそこ苦戦した四天王が束になっても勝てないとか俺一人じゃ絶対勝てなかったな…そしてそれを赤子扱いしているこの人は何者だまじで。
「他の魔王とか人間側の一番強いやつにも勝てますか?」
「五分五分と言ったところだろう」
「世界平和のほうがよくないですか?」
「くだらん、弱者を蹂躙するのが魔物だ、強いやつが何故大人しくしていないといけないのだ、弱いのが悪いのだろう」
魔王という生命体についての理解が深まる。他者への思いやりなどを持ち合わせていない、だからこそ倒したときに読者が喜ぶのだろう。作品の方向性が少しづつ見えてきた気がする、人間だろうが魔物だろうが嫌なやつを倒すことで読者への快感をプレゼントしたくなる。こいつを使った最後の検証を始める。
「師匠、こいつ殺せます…?一方的なやつじゃなくて普通に戦ってもらいたいんですけど…」
「出来ないと思うかい?」
「いや、余裕だとは思うんですけど一応…?」
「いいだろう、戦いのイロハを教えてやろう」
「人間ごときが…我を愚弄するか!!」
魔王は金縛りが解け急いで立ち上がり炎のブレスで先制攻撃を仕掛ける。あ、やばいこれ死んだかも。
「っ…??」
俺と師匠を球体のガードが包み込みかすり傷一つない。
「これが防御魔法というやつだ」
「今から私は攻めに転じるが巻き込まれないように逃げるなり防ぐは自分でやること、いいね?」
俺が返事をするより早く師匠は飛び掛かり蹴りをお見舞いする。魔王は壁まで吹き飛んだもののすぐに反撃を開始、炎を纏わせた拳を高く振り上げ殴り合いを希望した。拳が降りてくる一瞬の内に師匠がフッと息を吐くと拳に纏わりついていた炎は消火される、それに驚いた魔王の隙を見逃さず今度は師匠が炎の纏った拳で魔王の腹をぶん殴る。 今回も激しく吹き飛ぶのかと思ったが殴りの衝撃は体の中で留まり初手の蹴りとは比較にならないほどのダメージを与える。血を吐きその場にひれ伏す魔王を尻目にドヤ顔で語り掛けてくる。
「こんなところかな、止めも刺していいのかい?」
「俺今回何もしてませんしどうぞ止めもお願いします」
師匠が雷を纏った氷の槍を投げ息の根を止めようとした瞬間に魔王が俺のほうにすごいスピードで近づてきて俺を人質に取る。
「グッ…」
「このガキがどうなってもいいのか!!」
おい…やめろ…絶対に意味ないから!見ろ、あの人もう既にニヤニヤしてるぞ、人質を取られた人間の顔をしていないぞ。
「まいったね」
言葉とは裏腹に持っている槍を強く握りしめ投擲する、早すぎて槍を目で追うことはできなかった。
「「グハッ…!」」
二人で仲良く貫かれ同じタイミングで死に至る。痛みを感じる間もなく目の前が黒で染まる。
「起きろ!」
やはり一瞬で目が覚めた。腹に空いたはずの大きな穴も痕すら残っていない。
「いい企画は作れそうか?」
「はい…!いいのが作れそうです!」
自分が倒したわけではないけれど嫌な奴が痛い目をみるというのは気持ちがいいものだ。読者の気持ちにより深く寄り添えるようになった気がする。
「では帰るとしよう」
今回はベランダへの移動ではなく部屋の中に直行。何かあったら報告しろと脳内に語り掛けてきたものの既に姿は消えていた。
戦ったわけでもないので睡眠をとることはなくプロット作りを開始する。
「やっぱり嫌な奴をぶっ飛ばす話にしたい…」
「魔王以外にも倒す相手がいた方がいいよな」
そうなれば流行りの追放ものを書きたい気持ちもあるがそれだと主人公が勇者という設定にするのは難しい、勇者が追放される訳がないからだ。
「俺が勇者じゃなくてもいいか!」
「お姉さんをモデルにしたキャラを敵にした前回は没を喰らったから今回は味方のキャラにしよう」
大枠が決まればそこからは早い、どんどんとアイデアが湧き出てくる。それもすべて師匠が与えてくれた異世界での経験のおかげだ、それを無駄にすることがないように必死で文字を綴る。
「これでいいかな」
ベランダに出て完成したことを念じるといつも通りすぐに飛んできてくれた。
「いい企画を作れたのかな」
「はい!」
「学生がクラスごと異世界に飛ばされて無能な主人公以外が魔王軍に入るところから始まって、勇者のお姉さんに拾ってもらい強くなって全員ぶちのめす話です!」
「私に出会ってからの経験を活かしたのか、いいだろうそれで書いてごらん」
嬉しいがまだスタートラインから少し飛び出ただけに過ぎない、きっと本文はさらに厳しい目で審査が入るはずだ。気合を入れなおし頑張ろう。
「本当は一話目の構想も聞きたかったが今日は予定が立て込んでるからここで解散にさせてもらうよ」
「わかりました」
消えていなくなるお姉さんを見送りタバコに火を付ける。いつもより深く吸い思いっきり煙を吐き出す、人生で一番おいしいタバコだった。
「よっしゃーー!!これから頑張るぞー!!」
誰もいない空に魂の叫びがこだまする。
あとがき
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