第19話 お披露目会

 私は、今日から雅様の妻になる。

 あの、鬼神家の若当主の、お妻様になる。


「すっっっっごく、お綺麗よ、美月ちゃん!」

「あ、あああ、アリガトウゴザイマス」


 今、私は響さんが選んでくださった白無垢を着ています。


 ま、ままま、まさか私が白無垢を着る事になるなんて思ってもいなかった。


 しかも、鏡を見てみると、化粧も……。

 私なのに、私じゃないみたい。


 化粧で女性は化けると聞いたことはあるけど、まさかここまで別人のようになるなんて思わなかった。


「ふふっ、緊張しているの?」

「キンチョウシテイマス」

「…………少し、肩の力を抜いた方がいいかもしれないわね」


 あ、響さんが私の後ろに回って、肩に手を置いた。

 ゆっくりと摩ってくれている。


「大丈夫、大丈夫」


 後ろから顔を覗かせ、笑みを見せてくれる響さん。

 その笑みを見たら、なんか、心がほっとしてしまった。


「はい、ありがとうございます」

「ふふっ、それじゃ、もう少しで雅が迎えに来るはずよ」


 お披露目式は、鬼神家の大広場で開かれると聞いている。

 もう、招待客は集まり、待機しているとさっき女中さんが教えてくれた。


『母様』


 あ、襖の奥から雅様の声。


「準備は出来ているわよ、入りなさい」


 響さんが言うと、襖が開かれる。

 そこには、いつもは着物姿の雅様が、白を主体としている袴を着て立っていた。


 髪は珍しく下ろしている。

 さらさらで、美しい。


「準備できたらしいな。――どうした?」

「雅様がお美しすぎて、その、つい見惚れてしまいました……」


 素直に言うと、雅様はなぜか固まってしまった。


「…………それを言うなら、美月の方が数倍も綺麗で愛おしいぞ。もう、目を合わせられん」


 恥ずかしくて逸らしてしまった顔を上げると、雅様も顔を逸らしていた。


 いつもの癖で口元を隠し、薄花色の髪から覗き見える耳は赤い。


 手の隙間から見える頬も赤く染まり、美しいけど可愛くも見える。


「ふふっ、お二人とも美しいわよ。来客者が全員貴方達に釘付けになってしまうわね」


 響さんが私達を見て、柔和な笑みを浮かべる。


「では、これ以上来客者達をお待たせする訳にはいかないわ。早く会場に行きましょう」


 響さんの言葉に雅様は頷き、私も気持ちを落ち着かせる。


 深呼吸、大事。


「行くぞ、美月」

「はい」


 差し出された雅様の手に、自分の手を乗せる。

 優しく握られ、ゆっくりと進む。


 これから、私は正式に雅様の妻になるんだ。

 多分、毎日幸せな出来事だけではない。それだけはわかる。


 でも、雅様となら、どんな困難も乗り越えていける。

 いや、乗り越えていきたい。


 雅様の優しく、温かい手を掴み、共に歩んでいきたい。

 私に出来る事で、全力で支えていくんだ。


 一人で頑張ってしまう、愛しの旦那様を――……

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