召喚士激突編

第23話 激突!召喚士vs召喚士(前編)

 異世界転生8日め、召喚したのに異世界に残ると言い切った大学時代の友人、菱川裕平通称ヒッシーとおれは王都フルマティに開店した“寿司つじむら”でランチすることにした。


ヒッシー「これがミキティの店かぁ、なかなか盛況だにゃ」


ミキオ「華屋与兵衛さんという寿司の神様みたいな人に徹底指導してもらったんだ。シンノス、二人ともおまかせで」


シンノス「あいよ!」


ヒッシー「あのミキティが異世界で寿司屋を開くなんて、日本にいた頃は考えもしなかったにゃ」


ミキオ「おれもだ」


シンノス「へいお待ち! ショニサウルスの砂ずりのとこっス」


ヒッシー「へぇーすげぇー。ショニサウルスって中生代に棲息した海棲爬虫類の一種じゃなかったっけ」


ヒッシーもこう見えて東大卒であり博物学的な知識もある。


ヒッシー「うん美味い。海棲爬虫類ってこんな味なんだ」


ミキオ「ヒッシー、率直に聞きたい。おれはこの異世界での生活に満足しているが、唯一気がかりなことがある。おれは9日前に東京で一体どういう死に方をしたんだ?」


ヒッシー「わかんないにゃあ。ミキティは突然行方がわからなくなったんだよ。死んだって噂はあったけど死体も見つかってないし、未だに消息不明のままだよ」


ミキオ「そうなのか? 不摂生な生活をしてたし、多臓器不全か何かで死んだのかと思っていた」


ヒッシー「ミキティ、一回実家に戻ってあげなよ。逆召喚だっけ? あっちに戻る能力もあるんだろ、お母さん心配してると思うよ」


ミキオ「母親なら何か知ってるかもしれないな…わかった、ちょっと行ってくる。おれのぶんの寿司、食っといてくれ」


 おれは青のアンチサモンカードを取り出した。


ヒッシー「フットワーク軽いにゃあ〜」


ミキオ「ベーア・ゼア・ガレマ・ザルド・レウ・ベアタム、我、意の侭にそこに顕現せよ、東京都清瀬市のおれの生家!」


 おれは黄色い炎に包まれ、カードの魔法陣によって前世の地球、東京の生家の玄関前に出現した。独り暮らしを始めてから実家には帰っておらず半年ぶりだが何も変わっていない。車がないからまだ母さんは仕事か…などと考えていたら突然ガクンと目の前の視界が歪んだ。これは…もしや召喚の感覚!? いかん、何者かに召喚されている?! 魔法障壁を張らなければ…と思う間もなく、強力な召喚魔法によっておれは一瞬で部屋から消失した。




 気がつくとおれは召喚されていた。どこかの倉庫か、目の前にはスキンヘッドにミラーサングラス、白いスーツの男が立っている。長身で軍人のように胸板が厚い。何者だ、東アジア人みたいだが。


林鵬「 你好吗(元気かい)、辻村三樹夫君」


 いきなり現れたおれのフルネームを知っている。間違いない、おれはこの男によって東京から召喚されたのだ。


ミキオ「妖精、いるか」


クロロン「いるよー」


ミキオ「あいつ何者だ、検索できるか」


クロロン「林鵬(りんほう)、通称葬儀屋。中国に雇われてるエージェントだよ。ミキオは中国河北省邯鄲市に召喚されたんだ」


林鵬「何をぶつぶつ言っているのかな? 辻村君、やっと会えたね。君は何者なんだ? 先週から君を召喚していたが応答が無かった、君は1週間あまり地球上に存在していなかったということになるが」


ミキオ「お前、召喚士か」


林鵬「いろいろ知っているようだな。私は道士の家系でね。代々伝わる能力だとだけ言っておこう。断っておくが逃げても無駄だよ、私は地球上のどこからでも君を強制的に呼び出すことができる」


 つまり異世界ガターニアにはその力は及ばないということか。おれの召喚魔法よりはレベルが低いようだ。


ミキオ「おれに何の用がある」


林鵬「辻村君、率直に言う。私の契約相手が君の研究に興味がある。中国に住まないか? 君には深圳の高級マンションと東大大学院時代の100倍の給料が与えられ、中国の国家戦略に多大な貢献をすることになる」


 おれは前世の東大で空間跳躍の研究をしていた。まだ研究の段階でしかないが、成果によっては移動や物流にとんでもないイノベーションが起こると予想される。


ミキオ「カネにもマンションにも中国の国家戦略とやらにも興味ない。話がそれだけなら帰らせて貰うぞ」


林鵬「まあ、私の召喚術を見てからもう少し考えてみるといい。地水火風空陰陽転々、呂布、来来」


 林鵬が妙な呪文を唱え道教の札(ふだ)を取り出して空中に投げた。札には太極(タァジィ)が描かれており、そこから噴出した緑色の奔流に包まれて武人姿の偉丈夫が出現した。三國志の英雄、呂布奉先である。彼は迷いなくおれに方天画戟を構えて真っ直ぐに向かってきた。


ミキオ「エル・ビドォ・シン・レグレム、我が意に応えここに出でよ、汝、武蔵坊弁慶!」


 呂布に対抗するにはこれだろう。おれのサモンカードが紫色の炎をあげて平安末期の豪傑・武蔵坊弁慶を出現させた。呂布に勝るとも劣らない頑健な巨躯である。バチン! 呂布の方天画戟と弁慶の薙刀が大きな金属音を立ててぶつかり合う。ふたりの武力はまったく互角のようだ。


林鵬「何だと…君も召喚士なのか!?」


ミキオ「まあな。たぶんお前より格上の最上級召喚士だ」


林鵬「くっ…地水火風空陰陽転々、趙雲、来来!」


 今度も三國志の英雄である趙雲子龍を召喚してきた。こっちは呂布と違い剣術と機動性が売りの武将だ。ならばこちらは牛若丸といこう。


ミキオ「詠唱省略、ここに出でよ、汝、源義経!」


 カードから出現した九郎義経は逡巡なく趙雲に向かっていった。八艘飛びで軽々と趙雲の青紅剣をかわすが義経の名刀“薄緑”も趙雲の体には当たらない。両者の武力はこれまたまったくの互角だ。


ミキオ「まだやるのか? さっさと帰らせてほしいんだがな」


林鵬「調子に乗るな、小僧! 地水火風空陰陽転々、天龍(ティエンロン)、来来!」


 林鵬がそう唱えるとやつの札から倉庫の屋根をぶち抜いて巨大な龍が出現した。長い身体と角、大きな口に牙を生やした紛れもない龍である。


ミキオ「ここに出でよ、汝、八岐大蛇(ヤマタノオロチ)!」


 龍に対抗するためおれはサモンカードより日本神話の怪物を召還した。八つの頭と八本の尻尾を持つ水神である。龍に対抗するに相応しい巨体と威容だ。両者が怪獣映画さながらに激突することによって完全に倉庫は崩壊した。


林鵬「姑獲鳥、来来!」


ミキオ「ここに出でよ、汝、八咫烏!」


 おれたちはそれぞれ鳥の幻獣を召喚し、その背に乗って空中に舞い上がった。


林鵬「…こんな…こんな…こんな馬鹿なっ…!」


 最初に登場した時のドヤ顔はどこへやら。スキンヘッドのエージェントはすっかり冷や汗だらけとなっていた。


ミキオ「魔力切れか? なら帰らせてもらう。言っておくがおれにはまだお前に見せていない能力もあるからな。もう呼ぶなよ」


 そう言いながらおれは青のアンチサモンカードを取り出し、“逆召喚”の呪文を詠唱した。


ミキオ「ベーア・ゼア・ガレマ・ザルド・レウ・ベアタム、我、意の侭にそこに顕現せよ、おれの生家!」


林鵬「まさかあれは、逆召喚…!? く、糞…!!」


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