ハイエストサモナー ~最上級召喚士は誰でも異世界に呼びつける~

ムーブメント・フロム・アキラ

第1話 初耳だがおれは神の子だった

 おれの名は辻村三樹夫。23歳。自慢じゃないが生まれつきの天才でもちろん東大に通ってる。将来を嘱望され院生として多忙な研究者生活を送っていたが、ある日目覚めるとそこはやたらにだだっ広く壁のない真っ白い空間だった。


ミキオ「これは…おれは死んでしまったのか?」


 あまりに若過ぎる死だが、研究に没頭するあまり不摂生してたからな、無理もない。死は受け入れるとして、さてどうしたものか。途方に暮れているとやがて目の前の空間が黄金色に輝き、これぞ神様というようなビジュアルの老人とラウンドガール姿の美女ふたりが出現した。


天使A「おめでとーございまーす♡」


天使B「転生でーす♡」


 何だなんだ、何が起きてるんだ。


神「我は天界の神、パシリス。このふたりは天使である。汝、辻村三樹夫よ、よく聞くがいい。汝は天に召された」


 これぞ神様というような老人がこれぞ神様というような台詞を言った。


ミキオ「はあ」


神「リアクション薄っ!この状況でそんな回覧板受け取る時みたいな生返事出るか?」


ミキオ「いや、まあ、だろうなと」


 “神様”は呆れつつも言葉を続けた。


神「実はおぬし、神の子でのう」


ミキオ「…あなたの?」


神「いや、ワシでのうて他の神なんぢゃが、神の子ゆえおぬしは来々世で陞神することになっておる」


 陞神。はじめて聞く単語だがおれは天才なのでだいたいの意味はわかる。えっおれ生まれ変わったら神になるのか。凄い話だな…まあ天才だしな。そういうこともあるか。


神「おぬし、父親の顔を知らぬであろう。おぬしの父こそ大神ゼウスなのぢゃ」


 そう、おれはシングルマザーの母親と祖父母のもとで育った。父のことは大恋愛したが結婚前に別れたとだけしか聞かされていなかったが、なるほど、神か。母親も祖父母も極めて普通の人だったのでなぜおれのような天才児が生まれたのかと思っていたがこれで納得がいった。


ミキオ「そのゼウスという神は、あなたより格上?」


 目の前の“神様”は不承不承答えた。


神「まあ、その…ゼウス神は我の父祖にあたるゆえ、格としては上ということになるかの」


 なんだ、同じ神の子ならおれと同格じゃないか。


ミキオ「なるほどな、大体わかった」


神「急にタメ口!?」


ミキオ「陞神は来々世と言ったな? ということはつまり次の人生は再び人間として生きろということだろう。あんたはその説明に来た使者ってわけだ」


神「…まあ、そうなんぢゃが。話が早うて助かるわい。神の子ミキオよ。我が同胞(はらから)よ。汝は来世にて今の記憶を保持したまま異世界ガターニアに転生し、人間修行を経て来々世の陞神に備えるのぢゃ」


 出た、異世界。どうせ剣と魔法とエルフの世界だろう。あまりに定番過ぎて何の感動もないが神だの何だのと矢継ぎ早に言われると不思議とそういうものかなと思えてくる。


ミキオ「まあ、理解した。で、何かギフトはあるのか」


神「ぎふと」


 使者の神パシリスは目を丸くした。


ミキオ「しらばっくれるんじゃない。異世界転生と言えばの定番中の定番だろう。生きることすら大変な異世界を生き抜くための特殊能力をくれと言っている」


神「…仕方ないのう…なんでも知っておってかなわんわい…ではこれを使うが良い」


 使者の神パシリスが手をかざすと何もない空間に日本風の福引きが出現した。


ミキオ「…ふざけてる?」


神「汝は前世を日本で過ごしたゆえそう見えておるがここはあくまで天界の神脳空間、神々の精神の共有フォルダぢゃからの。アメリカ文化圏ならばフォーチュンクッキーに、中国ならば“籤(せん)”に見えとる筈ぢゃ。これにより天運が示され汝に与えられる能力と職業が決まる。文句言うとらんとさっさとやらんかい」


 なるほど、そういう仕組みか。思えばこのパシリスとかいう神も本来何語を喋ってるのかわからないがおれには日本語の爺さん口調に聞こえるからそういうシステムなのだろう。


 ガラガラガラ、福引きを回してみると青い玉と金色の玉がふたつ出てきた。


神「おっ!青の玉、召喚士ぢゃな!」


 召喚士…というと、あれか。モンスターとかを呼び出せるやつか。まあこれも定番と言えば定番だが、ありきたりで先の展開が見えるな。


ミキオ「待てジジイ、玉はふたつ出てるだろ。この金色のはなんだ」


 やや焦った感じで使者の神パシリスは答えた。


神「ぬ、ふたつ出したらいかんぢゃろ…やり直せ、ほれ」


ミキオ「この金色の玉は何だ? もしかして一等賞?」


神「…いやその、特別賞というか…望みどおりの能力特性でレベルがMAXになるという…」


 なんだ、いいのがあるんじゃないか。


ミキオ「じゃそっちもだ。能力は召喚士でいい。レベルMAXの召喚士、最上級召喚士にしてくれ」


神「あのなぁおぬし、ただでさえ神の子が転生したら神与特性が付加されるのに、そのうえレベルMAXなんぞにしてしもうたらもう人間のレベル超えちまうぞ。来世は人間修行の人生なんぢゃから艱難辛苦も甘んじて受けるのぢゃ。今回は悪いことは言わんから普通の召喚士にしとけ、ほれ」


ミキオ「構わん。最上級召喚士で頼む。そっちの方がいろいろ楽しそうだ」


 言っちゃ悪いがおれは子供の頃からこうと決めたら意地でも変えない主義なのだ。ジジイは困った顔をしているが、後ろの天使たちはニコニコ笑っている。


神「…おぬしが神になった時の天界が心配ぢゃの…わしゃ知らんからな!さっさと転生してしまえ!」


 ジジイが杖を振るとおれは一瞬で真っ白の空間から消え去り、新緑萌える草原の中に出現していた。

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