第30話

 成人式も過ぎ、数日後。


 何の前触れもなく、井戸田から風花に連絡があった。


 電話越しだったが、思いもよらぬほど丁寧な謝罪を受けた。


 厳しい両親の元で会社を継ぐために育てたられた井戸田は、親の愛情に恵まれて育った逢夢に、どうしてか一種のジェラシーのような感情が抑えられなかったと言う。


 何も知らないくせに。

 風花は、そう思った。


 顔に水をぶち撒けた件は、風花も謝った。


 井戸田は意外にも自分のせいだと繰り返した。


 一体、何の風向きで、井戸田が自分のプライドを折ってまで、無名の風花にこだわるのか分からなかった。


 ただ一つだけ言えることは、井戸田は彼自身の言う通り嘘がつけない馬鹿正直だと言うこと。


 色々あったものの、こうして風花は正式に井戸田の会社と契約することになった。


 はじめて絵を描いて、お金を貰う。


 電話を終えたあと、風花はすぐに逢夢にLINEをした。


 あの日、井戸田と揉めたことを逢夢が気にしていたから、一刻も早く伝えたかった。


 すぐに既読マークが付いた。


 そして、


『おめでとう』と言われた。


 その頃、逢夢がどんな気持ちでいたかを何一つ考えずに、ただ、うかれていた。

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