第七話 嬉しくてたまらない鎌売
大川の目の前で、
「まだ広瀬さまのことが苦手なのね。」
と心配そうな顔をした。
(苦手? 嫌いなんです。あの人とは
大川は感情がさざなみのように揺れ、
「話しておきたい事があるの。あたくしの部屋に一緒にいらっしゃい。」
(
そう思うものの、
大川はうなずき、
「わかりました。可須美、またあとで。」
と、青い目の美しい
「ええ。」
可須美は清らかな微笑みを浮かべた。
「
可須美のことを頼める
「おまかせください。この後は可須美さまに湯殿で汗を流していただいたあと、昼餉をご用意し、宴の為にお召し変えをしていただきます。」
「そうしてくれ。」
去り際、
「
と厳しい声音で────鎌売は普段から厳しい声音でしゃべる。懐かしい────
「いっ………、母刀自。オレはもう二十八歳なんだが。」
三虎は不満そうに顔をしかめる。
「ふん!」
妻を持たない息子なぞ、まだまだ
四年ぶりに無事に帰ってきた息子に会えて、内心嬉しくてたまらないのだろう。
「まあ、ほほほ。」
ころころと上品に笑った。
大川はくすっと笑って、
「三虎も
鎌売は母刀自、
鎌売も三虎も、かっ、と目を見開いて、
「不要です。」
「オレはいつも通り、ずっと大川さまのお側にいます!」
勢いこんでバラバラのことを言う。
「あっはっは。」
大川は笑い、母刀自も、
「ほほ。」
と品良く笑う。可須美が、
「
と
「ええ、自慢の弟なんです。」
三虎は、顔を複雑に歪めて────わかりづらいが、あれは照れてる顔────鼻の下を指でもぞもぞこすった。
可須美と別れ、
大川は、
「三虎、私たち二人とも、
………
と、感謝を告げずにはいられなかった。
あの時、大川は、全てを投げ捨て、入水しようとした。
遣唐第一船の残骸や、死んだ遣唐使が浜に流れ着き、可須美も嵐で死んだのだと絶望して。
もし、あの時三虎が止めてくれなければ、大川はここにいなかった。
「従者として当然のことをしたまでです。」
三虎は淡々と言う。
「そうだな。」
大川は、そんな三虎が大好きだ。
「いつもありがとう。」
「恐れ多いことにございます。」
三虎は立ち止まり、礼の姿勢をとってから、小走りにあとをついてくる。
「………ぐすっ。」
三虎を忠実な従者であるよう、幼少の頃から育て上げたのは、鎌売なのだ。
いつも怖い顔をして、幼少時、イタズラっ子だった三虎の尻を叩いていた鎌売だが、その中身は、愛情深い母親である。
もちろん、大川は
(鎌売のもとに、無事に三虎を連れて帰ってこれて良かった。)
大川は微笑みながら、母刀自のあとを歩く。
↓挿絵です。
https://kakuyomu.jp/users/moonpost18/news/16818792438102549109
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