第九話 可愛い男、その中身は狼
「
寝台の上で。
笑わない妓女、
「何もしないって言ったじゃないか!」
玉明は、
衣の上からでも、細身の
(好ましい。)
玉明は自分の豊満な身体を、胸を、
玉明の武器は、おおぶりな乳房だけではない。ふっくらとした腕、富貴を匂わせる腹、たおやかな柳のような腰。
身体全部が男にとって魅力のかたまり。
玉明を身体の上からどかそうと、玉明の両肩に手をやった
「……!」
その肩の感触のやわらかさ、肩の描く線のまろやかさに、みるみる真っ赤になった。
きっと、想像以上の、柔らかさだったのだろう。
「痛いですわ。手を離してくださいまし。」
嘘だ。
「あ、ご、ごめん……。」
困った
玉明はゆうゆうと、
「何もしないと言ったことに偽りはありません。
ただ、夜はさみしくて……。わたくしは妓女ですから、すこぅし、身体を寄せたくなっただけです。こうやって、二人で寝台で寝そべりながら、おしゃべりをしましょう?」
「何もしない?」
その視線は熱を帯びている。
女として意識されてるのを、玉明は感じる。
(かわいい。)
自分の国に残してきた恋人に誓いをたて、誠実であろうとしつつ、玉明の放つ妓女の色香に、平常心は波立っている。
そのような男、可愛くないわけがない……。
(あ。)
玉明のなかで、また、なにか、動いた。
感情の、波。
泡立ち。
おおきな海のなかの、小さな波が作る、細かい白い泡のよう。
(今、何かわたしくのなかで感じたわ。何。今の感情はなんなの。わたくしに……、笑顔を取り戻させてくれるの?
わたくしに返してくれるの?)
「
どうして、わたくしを
「目の前の卑怯な行いを見過ごせなかっただけだ。あなたがそこまで恩義を感じる必要はない。」
「爆炭(女将)に、十日間の休みを交渉してくださいました。とても助かりました。」
「オレには、もう嫁いだけど、身体の弱い姉がいる。女性が辛そうにしてるのを見過ごせない。助け手は必要なんだ。」
「優しいのね……。」
(
……わたくしは、さっきから、羨ましがってばかり。
わたくしは、どうしてしまったのかしら?
人比人、比死人、鶏比鴨子淹死而已。(人と比べればきりがない。ニワトリがアヒルと競っても溺れるだけ。)
妓楼の外の人を羨んだって、なんにもならない。虚しくなるだけってわかってるじゃない。)
玉明は、物憂い顔で、
右腕には、飾り布を巻いている。その布のしたには、愚かな男に証をたてた証拠の歯形が、今でも残っている……。
* * *
源は
近くで見る
初めて言葉を交わした時は、つん、と澄まして、冷たく、誇り高い、近寄りがたい印象の妓女だった。
源にとっては、
(唐の妓女はそういうものか。すこし酒を呑んだら帰るのだから、かまわないさ。)
それだけの縁だと思った。
そんな唐の妓女が、自ら源の身体の上に乗る日が来るなど、誰が想像しえたであろう?
豊満な身体はどこもかしこも柔らかく、良い匂いがし、女の色香が濃厚に匂い立つ。
源の知る、どのような女とも違う。小柄で細身の
これほど良い匂いの、富貴ゆえの太り
ここは大唐の妓楼。
今、源の目の前には、赤い唇があり、源の腹には大きさを誇る見事な乳房が、その重量を源に伝え……。
(おおおおおおお狼になっちゃうぅぅぅぅぅぅぅぅ!)
───
───狼だぜ。
源の下半身がすこぶる硬くなりながら、そう言っている。
(ダメ!
↓挿絵です。
https://kakuyomu.jp/users/moonpost18/news/16818622172170672052
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