第8話:出版社は警察に協力するのか

 出版社)


 東北の小さな出版社である央端社。小説を出版することを生業なりわいにしていた。そのため、ホームページからの原稿を受付していた。そのため、「文豪」の新作も受信したのだった。


「編集長、また『文豪』の原稿が届いてます。どうしますか? 警察に届けますか?」


 編集員和田が編集長である小室に訊いた。前回と前々回は結局事件として扱われたため、その詳細が書かれているという小説は重要な証拠として扱われた。つまり、小説の投稿主の「文豪」は犯人として認定されていた。


「そうだな、原稿は2部印刷して、とりあえず、1部は警察に届けろ。そして、もう1部は私のところに持ってきてくれ」


 今までとは違う反応だった。編集長小室としても多少興味が湧いたようだった。央端社の様な小さな出版社の場合、的外れな出版は致命的になるのだ。確実に売れる物を販売する必要がある。


 WEB投稿の「文豪」が犯人認定されたことで、それよりも詳しい内容を投稿してきている「文豪」の原稿とされている央端社の情報は警察としても重要視し始めていた。WEB小説の「文豪」と出版社に投稿の「文豪」は同一人物と認識していた。


 普通に考えたらまだ逮捕されていない連続殺人の犯人がその殺人について詳しく書いた本なら飛ぶように売れるだろう。しかし、想像するのと現実はいつも大きく違う。出版社の、それも編集長となると良いことばかりを考えればいい訳じゃない。今回の原稿を出版することを考えたら、いくつもハードルがあるのだ。そして、一番の悩みは発売した時に人々の興味が既にほかにそれてしまっていて、せっかくの本が売れないこと。


 この時点では編集長小室は「文豪」の本を出版する気はなかったのだった。

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