エンディングで必ず死ぬ主人公に転生したのでなんとか生き延びてトゥルーエンドを迎えたい

すずと

第1話 生き残りたいならキャラの性能を変えてみろ

 RPGとギャルゲーが合わさったゲーム、《ブレイブアンドレア》


 主人公のフィリップ・バズテックはバズテック城の王子であると共に、数百年前に世界を魔王の手から救った勇者の血を引く子孫。


 しかし、魔王の意思を継ぐ者が現れて世界が再び魔王の恐怖に陥れられた。


 16歳になったフィリップは勇者の子孫として魔王討伐の旅に出る。


 旅の途中、様々な出会いを果たして仲間達と共に魔王を倒す。


 このゲーム最大の魅力はRPG要素だけではない恋愛要素だ。


 それぞれのヒロインキャラ達の好感度を上げるのと比例し、主人公とそのヒロインの強さが上がっていく。もちろん、好感度だけでレベルが上がるわけではなく、モンスターを狩ればちゃんとレベルが上がる。


 二股、三股も可能で、浮気すればするほどに強くなる。ただし、あまりにも酷すぎるとヒロインに殺されるバッドエンド付。


 絶妙なラインで浮気をすると単純に強くはなるが、この作品は純愛主義なのか、ひとりを愛すれば愛するほど主人公がチート級に強くなる仕様。


 それというのもラスボス戦で必ず主人公が死ぬのだが、その時に愛したヒロインとの固有イベが発生。浮気をすれば固有イベはなし。その固有イベはどのヒロインとも絶大な人気を誇る。


「そう。俺は必ず死ぬんだよな……」


 窓の外を見ながら目を細めて昔にどハマりしてやり込んだ、《ブレイブアンドレア》のことを思い返していた。


 バズテック城のフィリップ王子の部屋。


 流石は世界を救った勇者の末裔、バズテック王家の王子の部屋ということだけあり、かなり豪勢な作りとなっている。


 どうやら俺は、《ブレイブアンドレア》の世界、フィリップ・バズテックに転生したらしい。


 転生した当初は驚きのあまり実感がわかなかったが、数日も経過すれば人間慣れるもの。自分がフィリップ王子ということを自覚すると共に、将来の運命も悟ってしまう。


「このままじゃ俺は死ぬことになる。わりとまじでどうすれば良いと思う?」


「わりとまじで意味不明な話を振られてしまい、ルティは困っております」


 昼下がりの紅茶をいれてくれながら、メイド服を着た同い年の専属メイド、カルティエ・ベニュワールは困惑の声を出した。


 長く美しいブロンドヘアに碧眼の美少女。フィリップとカルティエは物心ついた頃からの主人とメイドという関係。


 年は10歳だが大人びた艶やかな雰囲気を醸し出している。身長はフィリップよりも高い。


 このカルティエは初期パーティのヒロインだ。最初はこの子とふたりで旅をすることになる。武道に長けており、自らの拳で戦うスタイル。初期は主人公より強い物理攻撃を披露し、魔法も得意。


 純度100%の好感度になると刀を使用し、作中トップクラスの火力を叩き出す。


 幼馴染、専属メイド、つよつよヒロインってことで作中人気№1のヒロインだ。


「つまり、ご主人様はなにが言いたいのですか?」


「このままだと俺はラスボス戦でラスボス共々死ぬってことだ」


「その、らすぼすせんというのがルティにはわかりませんが、大丈夫。ご主人様なら立派にやり遂げるでしょう」


「グッジョブ♪ じゃねーよ! それはすなわち戦死しろってことじゃねーか! ああー、このままじゃ俺の未来は命をかけて世界を救った勇者で終わっちまう」


「それはかなり名誉な未来ですねぇ。妄想でしょうが」


「俺だって妄想であって欲しいわっ! くそっ! 死にたくねぇよ! ああ……運命変わってくんねぇかなぁ……」


 エンディングで必ず死ぬ主人公に転生したのでなんとか生き延びてトゥルーエンドを迎えたいが、このままじゃ死んでしまう。


「なにをそこまで悩んでいるのかわかりませんが、運命を変えたいのならば現状を変えるべきではありませんか?」


「現状を変える?」


「運命なんて些細なことで変わると思います。ご主人様は魔法がてんでダメなんですから、魔法を覚えれば将来の運命も変わるのでは?」


「魔法を、覚える……?」


 主人公のフィリップ・バズテックは魔法を一切覚えない脳筋キャラ。だからMPも0の代わりに攻守バランスの取れた戦士型パラディン。RPG初心者でも扱いやすいキャラである。


 そんなキャラが魔法を覚えたらどうなる?


 この作品は主人公が16歳になってから専属メイドのカルティエと共に魔王討伐の旅に出るところから始まる。


 だが、なんの因果か転生したのは10歳のフィリップ・バズテックだ。


 これ、今から魔法を覚えたら未来変わるんじゃねぇか?


「ルティ! それだ!」


「もしかしてご主人様の妄想は解決しちゃいました?」


「ああ。ようし、こうなったら魔法を覚えまくって、魔法使い超えて、妖精超えて、賢者超えーの、閣下になってやらぁ!」


「意味がわからないです」


「童貞四段活用だよっ! あっはっはっ!」


「意味がわかりませんが……普段魔法の勉強をしないご主人様が勉強する気になって良かったです、はい」


 こうして俺、フィリップ・バズテックは魔法を覚えて未来を変えてやることを誓った。


 五年間。必死に魔法を勉強し、覚えた魔法はゼロ〜。

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