異世界転生してもサラリーマン ~ビジネススキルで世界を導け~

@daikichi-usagi

プロローグ 転生の始まりと神の選択

俺、新藤薫(しんどう かおる)は、平凡なサラリーマンだった。仕事は毎日定時ギリギリまで働いて、クライアントの要望に応じて日々書類を作り、打ち合わせをこなす――そんな、どこにでもいる普通のサラリーマン生活だった。特に夢や目標があるわけでもなく、ただただ日常に流されて生きていた。


だが、そんな俺の平凡な人生が、ある日突然終わりを告げた。


その日は、仕事が長引いて夜遅くに退社することになった。少し疲れてはいたが、家に帰って一杯やって、寝るだけ――そんなことを考えながら、いつも通りの帰り道を歩いていた。


だが、その時、突然目の前に大きなトラックが猛スピードで突っ込んできた。運転手は完全に居眠り運転だったようで、俺に気づくことはなかった。避けようと反射的に身を投げ出したが、間に合わなかった。


「……くそっ!」


その瞬間、体に激しい衝撃が走り、俺の視界は真っ暗になった。そこまでが、俺の知る最後の光景だった――少なくとも、元の世界での。


気がついた時、俺は真っ白な空間に立っていた。周囲に見えるものは何もなく、ただ静寂だけが広がっている。


「ここは……?」


呆然と周りを見回していると、突然、どこからともなく重厚な声が響いてきた。


「新藤薫よ、よく目覚めた。お前は異世界に転生するために選ばれたのだ。」


「誰だ……お前は? それに、転生だと? 俺は確かに死んだはずだ……」


俺が混乱していると、再びその声が響いた。まるで、全てを見透かすような冷静さと威厳を持った声だった。


「私はこの世界を司る神だ。お前が事故で命を落としたことは事実だ。しかし、そのまま消え去ることなく、新たな使命を持って生きてもらうために、お前を転生させることにしたのだ。」


「新たな使命……?」


神の言葉はあまりにも突拍子もない。普通のサラリーマンだった俺が、神から使命を授けられるなんて、まるで冗談のように思えた。しかし、神の声にはそんな軽さは一切なく、むしろ圧倒的な力が込められていた。


「なぜ俺なんだ? 普通のサラリーマンの俺に、何ができるっていうんだ?」


俺は素直に疑問をぶつけた。だが、神はまるでそれを予測していたかのように、淡々と答えを返してきた。


「お前が持つビジネススキルと、潜在的な管理能力が、この世界には必要なのだ。お前は元の世界で、組織を運営し、効率を考え、人を導く力を培ってきた。その力が、この混沌とした異世界を救う鍵となる。」


「ビジネススキル……?」


俺は意外な言葉に驚いた。確かに俺はサラリーマンとして、営業やプロジェクト管理、チームの調整など、会社の中での役割をこなしてきた。だが、それが異世界で役立つなんて、思ってもみなかった。


「この世界は、魔法と技術が急速に発展している。しかし、その発展が制御できず、暴走しつつあるのだ。争いが絶えず、平和が脅かされている。技術の正しい運用と、組織的な管理ができる者が極めて少ない。だからこそ、お前のような管理能力と戦略的思考を持つ者が必要なのだ。」


「俺が……その役割を?」


神はさらに説明を続けた。この異世界では、魔法と技術が融合し、急速に発展してきたものの、それを正しく管理できる者が少ないために、混乱が広がっているという。技術の暴走、魔族と人間の対立、資源の争奪――この世界は、危機に瀕しているのだ。


「お前には、元の世界で得た知識とスキルを活かし、この世界を導いてもらいたい。技術と魔法を正しく運用し、争いを防ぐためのリーダーとしての役割を果たすのだ。」


俺はしばらく黙って考え込んだ。自分がただのサラリーマンだと思っていたが、神からの言葉に、少しずつ自信が芽生えてきた。確かに俺は、ビジネスの現場で問題解決をしてきた。プロジェクトの進行を管理し、メンバーを調整し、物事を円滑に進めてきた。それが、この異世界でも役立つのなら――


「分かった。俺にできることがあるのなら、やってみよう。この世界を救うために、俺のスキルを使ってみる。」


神は満足げに頷いたようだった。


「よかろう。お前の持つビジネススキルで、この世界で新たな使命を果たすのだ。」


その瞬間、俺の体は光に包まれた。

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