22話 ぶっちゃけ私も落ち着けない

「こ、ここがテナちゃんの家……」


「あー、ここは別荘なの。みんなが来るからって張り切っちゃって」


 目を逸らしながら別荘を紹介する。


 私が普段暮らしている家はごく普通の一軒家で、住宅街にも馴染んでいる。それにくらべてこの別荘は加減を知らない広さで、単純な横の広さでも家が二つ三つ分はあるだろう。元が乙女ゲームだから許される所業だ。

 前世の記憶を思い出した私はこの家に来たことがないので、私も緊張していたりする。と言っても、思い出す前もそこまで頻繁に来ていたわけでもないけど。


「さあ、入って入って」


「ご令嬢とは言ってたけど、想像より凄いや」


「デカいですね……なんか怖い」


 苦笑いしている水谷さんと一津さんに、入るよう促す。アヤさんはその場で立ち尽くしていた。


「アヤさんもどうぞ」


「えっ、あっ、うん!おじゃましまーす!」


 彼女は慌ただしく門をくぐり、玄関の方へと走った。私はその様子を見て、玄関の扉を開いた。


「おかえりなさいませ、お嬢様」


 扉の先には黒と白の、よくあるメイド服を着た無表情の女性――私の付き人である鍵島かぎしま真夏まなつさんが凛と立っていた。


「いつも通りでいいわよ、真夏さん」


「お嬢様がそう仰るなら……」


 そう言って向き直る真夏さん。皆の視線が彼女に釘付けになると、彼女は一回転し、片手は腰に、片手は横ピースで決めポーズをキメた。


「鍵島真夏だよ!みんなよろしくね~♪」


 ただし、無表情。キャラの変貌っぷりに戸惑うみんな。


「私のことは真夏とかナツ姉ぇとか……テキトーに呼んでいーよー」


「よ、よろしくです、真夏さん」


 アヤさんですら若干戸惑いながらの挨拶をしていた。いつも通りでいいと言ったものの、ここは猫を被らせていた方が良かったかな……。


「みんな勉強会しに来たんでしょ?リビングはこっちこっち!ほらおいで!」


 相も変わらず無表情でリビングを指差す。私も後ろから「ささ、行きましょう」と背中を押し、皆が移動するように誘導した。


「お茶淹れて来るね〜」


 私達がL字型のソファに座ると、真夏さんはそう言って立ち去った。


「テナちゃん、あの人がこの前言ってた?」


「ええ、休日の買い物なんかに付いてきてくれる人よ。昔っからお世話になっててね……まぁ昔からと言っても彼女もまだ二十歳だけど」


「ハタチ!?若いとは思ってたけど、想像以上だった……」


 彼女は言動を抑えればクールなお姉さんになるので、その影響か上の年齢に見られることが多いんだよなぁ。実際、小学生の頃から面倒をみてもらってるからお姉さんみたいなもんだし……そういうのがあって周りより大人びてるってのもあるのかな。


「早速だけど勉強、始めちゃいましょう」


「りょーかい!というわけで、わからない問題まとめて持ってきたよ!」


「ど、どんどん教えてくれたら嬉しい……なっ!」


 元気よく返事をする二人は山のような問題の束をドシンと机に置く。こんなプリント学校で配られてたっけ……?


「この前図書室で会った帷子先輩に問題集を作ってもらったのです!」


「なお私達的には難しすぎて、1割も進んでいない模様……」


「なるほど」


 帷子先輩だって自分の勉強があるだろうに、優しい人だ。いや、彼の場合は全教科合計1位を取り続けてるから問題ないか。


 帷子かたびら琉斗りゅうと、高校2年生で私達の一個上の先輩。その見た目と優しさとは裏腹に、授業中は居眠りしたりこっそりゲームをしてたりする不真面目生徒。だというのに独学で復習をし、全教科満点という偉業も達成した、一言でいうなれば生意気な天才児。

 ……以上、キャラクター紹介より。


「お茶持ってきたよ〜。お昼ご飯食べてくでしょ?私作ってくるね〜」


「よろしく、真夏さん」


「「「ありがとうございます!」」」 


 ひょこりと顔を出したかと思えばそそくさとこの場をあとにする。もっとゆっくりしていけば良いのに。


「じゃあ順番に問題を解いていきましょう。目指すはそうね……学年30位以内よ!」


「「ええ!?」」


 こうして私とアヤさんのスパルタ教育が始まるのであった。

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