其ノ弐 メアリーさんの噂
9話 予期せぬ相対、偶発的な対峙
「取り敢えず今日は帰ることをお勧めするよ。基本的に七不思議は夜にその姿を見せるけど、夜に忍び込む方法を確立してないからね」
舞咲さんにそう言われ、私たちは解散することにした。
「先輩、連絡先交換しませんか?」
「ああ、いいぞ」
さすがアヤさん、この間に距離を詰めて連絡先の交換までこぎつけている。私には出来ない真似だ。
「テナちゃんもグループに誘っといたから、後で入っといて」
そう言って彼女は自分のスマホの画面を見せてくる。そこには『賢桜学園七不思議解決隊会議室』という文字が羅列されていた。うん、センスが無い。
「んで、七不思議を解決するにあたって、お前らは足手まといにしかならなそうなんだが」
「あっ酷ーい!私こう見えて動けるんですよ?テナちゃんに関しては動き回るだけじゃなくて、作戦も考えれます!」
「つっても限度があんだろ。相手は人間じゃないんだぞ?」
廊下に3人分の足音が響く。夕日が真横から降り注ぎ、床には長い影が出来ていた。
「それはわかってますけど……というか解決ってどうするんですか?厄災とか怪異とか、わかんないことばっかりなんですけど」
ふくれっ面で怒るアヤさんを見向きもせず、先輩はマイペースで歩き続ける。
「簡単に言うなら、七不思議の負の感情を消し飛ばせばいい」
「負の感情?」
「七不思議は全員、幽霊や怨霊……現世に未練や恨みがある存在だと叔母さんが言ってただろ?」
先輩の叔母さん呼びが面白かったのか、アヤさんは笑いを噛み殺していた。私も初めて聞いた時はギャップでツボったっけ。
「だから、そいつらの負の感情を取っ払えばいいんだ。まぁ普通に祓う事もできるが――負の感情が飛び散ってちょっと良くないことが起きるからな」
「へー……なんかふんわりしてますね」
「怪異も千差万別だからな、マニュアルなんてねーよ」
「なるほどー。……やっぱり舞咲ちゃんもなんかあるんですかねー」
角に差し掛かると、曲がった先で誰かが駄弁る声が聞こえてきた。おそらく女子が二人。
当たり屋趣味は無いので大きく迂回して曲がろうとした――その時だった。
彼女ら……見覚えのある少女達のスマホから出る音を、耳にしてしまった。
『今かラそっちに行クねぇ?』
その音は確かに言葉として認識できたが、人間の肉声では無かった。様々な人間の声が混ざったような……くぐもった声。
その声とその言葉を私は知っていた。
「あなた達それ――まさか電話をかけたの!?」
気が動転した私は紫髪の生徒の肩を強く揺すっていた。しかし、その女子の青ざめた顔を見て、なんとか頭が冷えた。
「ご、ごめんな、さい……」
少女たちは取り返しのつかない事をしたと言わんばかりに震え、怯えていた。まずい……非情にまずい。
「おい、さっきの電話が何だってんだ」
先輩も私たちの様子を見てただ事ではないと思ったのか、冷や汗をかいている。私は震える声で説明を始める。
「さっきの電話は、七不思議の一人――メアリーさんからの電話、だと思うわ」
「七不思議の内容は?」
「ある場所に隠されているという番号に電話を掛けると、こっちに来る事だけを告げてその電話は切れる。そして、数分もしないうちにメアリーさんはやって来て――死ぬ」
実際にゲーム内で聞いた際は死ぬという情報はない。しかし進めていく内に判明する……というよりも、主人公が
だからこそ、この噂は最後に残しておこうと思ったのだが……まさか、電話の内容を聞いてしまうとは思わなかった。
「テナちゃん、そういう噂があるってことは、誰か死んだ人がいるの!?」
「いえ、噂に尾びれがついたものだとは思うけど、それに近しい状態になると考えたほうがいいかもしれないわ。舞咲さんも言ってたでしょう?七不思議を解決する事は死の危険を伴う、と」
全員の顔色がみるみる悪くなっていく。私の説明のせいで、絶望し始めている。でも伝えない訳にはいかなかったし……くそっ!
「数分もしない内に来るから、その間に舞咲さんのところへ逃げるわよ!」
私はその場にへたり込んだ少女達を引っ張り上げ、背中を押す。
「あなた達も!理解が追いついてないかもしれないけど、ただ事ではないのはわかってるでしょう!急いで教室棟3階の女子トイレに走るのよ!」
そうして私達は走り出した。先程までとは違いせわしい音がドタドタと廊下に響く。
具体的な分数まではゲーム内で語られていなかった。もう二度と死にたくないという気持ちで、私は全力疾走をするのだった。
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