5話 テナちゃんは優しいから
気がつくと
身体を起こし、そちらへ歩く。
(知ってる人だといいな……)
呑気に進む私は、人影の正体を見て絶句した。たしかに、願った通りそれは知っている人――テナちゃんだった。だが、表現するのならそれは変わり果てた姿だった。
胸には包丁が刺さっており、目と口からダラダラと血が滴り落ちている。思わず目の前まで駆け寄ったが、彼女から生気は感じられなかった。
「だから言ったじゃないか。なにを絶望しきった顔をしている?」
背後から、声がした。
「七不思議を解決するってことは、死ぬ可能性がある。伝えたはずだよ?」
ゆっくり、振り返る。
「彼女はうまくいかなかった……それだけだ。まぁ次の挑戦者にでも期待するよ」
そこには舞咲さんが、呆れた顔をして浮いていた。しかし舞咲さんは私の顔を見て、笑みを浮かべる。
「それとも――君も、やるかい?」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「……知らない天井」
目が覚めると、見たことがない天井が広がっていた。どうやら、さっきのは夢だったらしい。身体は重いし、嫌な汗もかいてる。
「起きた?」
可愛らしい声がしたので頭を傾けると、枕元にテナちゃんがいた。安堵の表情を浮かべ、私を見ている。その顔を見て、私も安心した。
ああ、そういや体育の時間に倒れたんだっけ、申し訳無いなぁ。
「ごめんね、テナちゃん」
「入学式の恩を返したまでよ。それで、その……何か悩みでもある?よかったら相談に乗るわよ」
あれこれと言葉を選んでいるように見えたが、結局単刀直入にそう言われたのは、ひとえに彼女が気を使う事が下手だからとしか言えないだろう。
不器用なのにミステリアスで、クールなのに可愛くて、私の大切な人。この世界に来て、一緒にいて一番落ち着く人だ。
上半身を起こし、彼女の顔を見る。しかしさっきの夢のせいなのか、少し視界がぼやけ、ふらつく。
「まだ横になってなさい」
「……うん、ごめんね」
言われた通りにゆっくりと横になる。
「テナちゃんには色々と迷惑かけてばかりで。私が勝手に言い出したことにも付き合ってくれたり、困った時に助けてくれたり……ほんとに、ごめんね」
「私も好きでやってるだけよ。そんなに思い詰めなくていいわ」
「はは、テナちゃんは優しいね」
「……そんな事ないわ」
私は黙って笑った。テナちゃんは優しいから、惰性的に私と付き合っているのかもしれない。それでもこうして、彼女を独り占めできる事がなにより嬉しかった。
「そうだ、七不思議の件なのだけれど」
「七不思議?」
「ええ。舞咲さんからある程度は聞いたわよね?私は七不思議の解決にあなたを巻き込むつもりは無いわ。もちろん手伝ってくれるなら嬉しいけど、それと同時に巻き込みたくないもの。だから――」
テナちゃんの言葉を聞き終わる前に、私は思わず抱きついていた。
いやだ、失いたくない、どこにも行かないでほしい。そう伝えたいのに、声に出ない。
彼女に伝わっているのはこの胸の鼓動だけだ。
「その、ね。私はあなたに会えて嬉しいの。私のために、色んな面白いことを教えてくれて、知らない世界を見せてくれて、こんなふうに思ってくれて。
優しいだとか気を遣ってるだとか、そういうのじゃなくて、ほんとに嬉しいの」
彼女の顔を見ることができなかった。きっとテナちゃんは笑いかけてくれているんだろう。でも、この顔だけは見せれない。見せてしまったら、友情が壊れてしまいそうで、怖い。
「……七不思議を解決する過程で、危険な目に会うと思う。もしかすると、死ぬかもしれない。でもそれはあくまで可能性なの。
でも、厄災は違う。このままでいたら必ず起こってしまう事。
だから、死なない為に死ぬ思いをしなきゃいけないの。私が七不思議を解決する理由は、あなたが大事だからとかじゃなくて、自分が大切だからってだけなの。自分勝手でごめんなさい」
嘘だ。嘘ではないのかもしれないが、彼女は私に心配をかけまいと、こういう言い回しをしたのだろう。不器用にも程がある。
それを聞いた私は彼女から離れ、ベットの上に立ち上がる。
「あ、アヤさん?なにをやって――」
あの日のテナちゃんの宣言も、七不思議解決の覚悟だったりして。
「私も、七不思議を解決する!世界を救って、二人で生きて、めちゃくちゃ幸せな学園生活を過ごすんだから!」
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