恋と願いの七不思議 〜生き残るために主人公と仲を深めたら、いつの間にかフラグ立ってました〜
十七夜 蒼
1話 社長令嬢のプロローグ
「私、
生意気な女が元気に私に自己紹介をしてきた。
しかしその苛立ちは脳内に溢れ出した、多くの情報によって流された。
頭が痛い。脳の処理が追いつかない。私は脳内の情景が
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「……あ、起きた?ゆっくりしてていいよ。先生呼んでくるね」
目を覚ませば先程の少女がいた。しかし風景はガラリと変わっており、その光景を一言で表すのであれば――
「――知らない天井だ」
その言葉をようやく言えた感動に打たれつつ、改めて脳内の情報を整理していく。
まず、私の名前は
ブラウンのウェーブがかかった髪が印象的。文武両道で才色兼備。幅広いジャンルの物事を嗜む社長令嬢。人間関係は最悪で、腹黒過ぎるため邪魔者を手段問わず排除しようとする。
以上、前世の記憶からの引用。
先ほど溢れ出した情報は全て前世の記憶。前世では、バイブルとも言える『恋と願いの七不思議』という乙女ゲームを完全クリアした数日後に、父親に刺され死亡。アニメや小説もそこそこ詳しい私には分かる、これは悪役令嬢に転生したやつだ。
主人公と同じ相手を好きになり、主人公の恋路の邪魔し、なんやかんや死んだり行方不明になったりと散々な立ち位置。未だに信じられないが、しかし記憶が鮮明すぎる。
悲惨な末路を辿る理由は、ゲームのタイトルにも出ている七不思議のせいなのだが……いかんせん現実味が無く、この世界にいるのか怪しい。後でノートにでもまとめておこう。
それより、私の思考回路が自覚できる程に変わった気がする。これまでストレスに感じていたものたちが、嘘のように気にならない。前世と今世の意識が混ざったのだろうか?
謎は深まるばかりだ。こういう時は一つ目標を立てれば道に迷わないと本で読んだ気がする。
目標はもちろん『普通以上の生活を過ごす』だ。死んだり行方不明だったりはごめんだからね。
「よし、生き抜いてみせるわっ!」
私はベッドの上に立ち高らかに宣言する。しかし考えすぎていたのか、その行為は、先程の少女が先生を連れて帰ってきたタイミングと重なってしまった。
「もう大丈夫なの?」
少女の顔は、赤色の髪とは真逆で蒼白だった。まぁそりゃ引かれますよね!
「まぁ元気そうだし戻りなさい。せっかくの初日なんだから、今のうちにみんなに挨拶しとかなきゃね。ささ、帰った帰った」
養護教諭はこういう生徒も見慣れているのか、何食わぬ顔で私達を教室に追い返した。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「あの、保健室に連れてきてくれてありがとう」
私は少女にお礼を言った。感謝の気持ちは本心だが、狙いは別にあった。
おそらくこの少女は――
「おっ、ここに居るってことはもう大丈夫そうなのか?」
そう言いながら階段から男子がやって来る。
「うん!なんかベッドの上でバシッ!ってポーズ決めてた!」
「……大丈夫なのか?別の意味で」
「心配してくれたのはありがたいけれど、あれは忘れてもらえるかしら」
男は苦笑いをしながら、ナチュラルに萩原さんの隣に位置取る。彼女に向ける爽やかな笑みには、友情以上の何かが見えた。
「あっ、そういえば自己紹介がまだだったな。俺は
「私は霜月照奈よ。萩原さん、芳関さん、よろしく」
なるべく微笑みかけるように言ってみたが上手くできているだろうか。これまでクラスメイトに優しく接することが無かったからなぁ。
「アヤでいいよ。これから同じクラスでやってくんだし。セータもいいよね?」
「ああ、そうだな。高校でのお友達1号さんだ。誠汰って呼んでくれ」
「アヤさんと誠汰さん……じゃあ私もテナでいいわ。よろしく」
「よろしくねっ!」
この少女の名前には心当たりがない。
しかし、芳関誠汰という名前の方には心当たりがあった。そう、攻略対象の一人だ。
彼は主人公の幼馴染。スポーツも勉強もそれなり以上。爽やかタイプのイケメンで女子人気も高いが、他人との距離の取り方が上手なので仲良くなった女子は逆に手を出せなくなる。前世の記憶ではこんな感じの印象だ。
そして、彼がここに来たことにより推測が確信へと代わった。萩原紋は、主人公だ。
基本的に一人称で進む作品なのだが、戦闘時にはSDキャラで主人公も登場する。その姿は赤髪ショートの女の子。
この世界では赤や青の髪色は珍しくない。前世の記憶を知った今では不自然にしか思えないが、これがこの世界の普通だ。
だから疑念の余地があったけど……彼が様子を見に来る相手なんて1人しかいないのだから、萩原紋は主人公以外の何物でもないだろう。
そもそもあのゲームにデフォルトネームでも有ればこんなに考えずに済んだのに……いや、責めることでもないか。
「そういえばテナちゃんはどこ出身?この辺りに住んでるの?」
一人で考えていると、顔を覗き込みながらアヤさんが話しかけてきた。顔が近いけど、これが普通の距離感だっけ?
「ええ、ここから徒歩10分程のところに家があるわ」
「じゃあ私と中学同じじゃん!この3人で、幼馴染だねっ!」
そう言ってアヤさんは私と誠汰さんと腕を組んだ。可愛いなこの子。
「でも霜月さんみたいな人見かけたこと無いぞ?似た人ならいたけど……」
誠汰さんは女の子に腕を引っ張られたというのに動じず、そのまま話を続けた。
「似た人?」
アヤさん達と出身校が同じなのは誠汰ルートで既に知っている情報なので気にならないが、私に似た人がいるというのは初耳だ。
「なんでも、お偉いさんの娘という立場を使って色々やらかしてる奴でな?先生方も手の出しようが無かったらしい」
「あ、聞いたことある!気に入った子とは仲良くするけど、嫌いな子にはめっちゃ強く当たるんだっけ」
「へ、へぇ……」
それ私!紛れもなく私だ!上手くやってるつもりだったけど、普通にバレバレだったんかい!
「まぁそいつの顔は見たことあるけど、もっと険しかったし……そんなやつと比べられてもだよな、ごめん」
「い、いいわよ別に。気にしてないわ。それよりほら、急いで教室に戻りましょう!」
痛々しい過去を心に突き刺された私は、なんとかその場を誤魔化すことしかできなかった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「わ……もう自己紹介始まってそうだね」
3階に着くと拍手の音が漏れ出していた。近くの教室を窓から覗くと、中央付近の生徒が立っていたので、おそらく私達のクラスもその辺だろう。私の番、終わってそう……。
「というかセータ、先生になんて言って抜け出したの?」
「普通に『二人の帰りが遅いから様子見てきます』って言ってきたよ。やましい事も無いし、嘘つく必要も無いだろ?」
「そりゃ突然倒れた子が一瞬で体調良くなるわけ無いじゃん……あ、治ってるんだった」
「ぐ……」
また
「冗談冗談、ごめんねテナちゃん。ほら、教室入ろう」
そう言ってガラガラと後ろの扉を開け、そこから入室する。
「霜月、もう大丈夫なのか?」
「はい、おかげさまで」
心配を一切表情に出さないこの男性は、担任の
ビジュアルだけなら学校一の人気だが、厳しすぎるため中身も合わせると学校一の嫌われ者とも言えるだろう。と、そんなことを考えながら席に着く。
隣に視線をやると、それに気付いたアヤさんが笑いかけてくれた。
「じゃあ次、自己紹介を」
「はい」
先生に促され起立した男子生徒を見ると、これまた前世の自分が何度も見た顔だった。
「俺は
自己紹介を聞きつつ、前世の記憶から彼の情報を引っ張り出す。
天堂健は言動が軽い男で、いわゆるクラスのムードメーカーと呼べる存在だ。しかしその軽さとは裏腹に、サッカーに対しては
「うし、次」
「はい」
と、こんな感じで自己紹介の時間は過ぎていった。アヤさんと誠汰はそのまま、私は最後に自己紹介をしたが、特に可もなく不可もなくだった。
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