ホワイトチョコレート

第9話

「杏。瑞樹君が、誕生日おめでとうだって。きっと、瑞樹君、杏と話したかったんじゃないの?」

 宇田川苺が古村瑞樹からの伝言を隣にいる白川杏に伝える。

「絶対ない。あいつの方から別れて欲しいって、一年前言ってきたんだよ。それが何。一年経って、電話って嫌がらせのつもり」

 名前も言いたくないのか、元カレの事をあいつと呼ぶ杏に、

「でも、瑞樹君。杏に彼氏ができたって言う私の嘘にかなり落ち込んでたよ。きっと後悔してるんだよ。杏と別れた事」

「はぁ! 自分から振ったあいつが後悔」

 理解できないと笑う杏。

「杏」

「!?」

 苺が杏の前に座る。

「杏は、本当にそれでいいの?」

「いいってなにが」

「だって、私が瑞樹君の名前を出す度、過剰に反応するでしょ。それってまだ……」

「苺。もう帰って」

「杏」

 苺の荷物を持って玄関に歩いていく。

「これ以上、あいつのこと言うなら、苺と友達辞めるから」

 強引に苺を外に追い出し、鍵を閉める。

 一人になった杏は、自分のスマートフォンを開く。待ち受け画像は、古村瑞樹と二人で撮った写真。

「瑞樹の馬鹿。なんで、今日、電話してくるの? せっかく一年かけてやっとあなたの事忘れようしたのに……馬鹿。この写真もやっと消去する覚悟が出来たのに。瑞樹からの誕生日おめでとう聞いたら消去できないよ。これしか残ってないんだよ。瑞樹との思い出。残りは一年前に消去したんだよ」

 スマートフォンに写る元カレの写真を指でなぞりながら、目からは涙が零れる。

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