第27話

「ごごごごごごめんなさい。大丈夫ですか?」

 会社を飛び出し、外に出た瞬間、誰かにぶつかってしまった。

 美緒は、ぶつかってしまった相手にすぐさま謝罪する。

 すると、美緒の謝罪にぶつかった相手は……

「僕は大丈夫です。それより……美緒さん! 貴女は大丈夫ですか?」

「なななな渚君!」

 そこに居たのは、三日前6年ぶり再会した泉石渚君だった。

「3日ぶりだねぇ? 今から仕事?」

「……」

 優しい声で自分に話掛けてくれる渚君に、美緒は思わず無言になる。

「美緒さん?」

「あぁごめん。なんだって?」

「うんんなんでもない。それより、あれから旦那さんとはどう? 僕のせいで気まずくなったりしてない?」

「永輝さんと……」

 私、永輝さんの事? これからも好きでいって良いのかな?

 私これからも? 永輝さんの妻でいていいのかな?

 私……

「……渚君?」

 渚がいつも間にか、自分の涙を拭いていた。

「ごめん! 美緒さんが泣いてたから思わず……大丈夫? 旦那さんとなにかあった? 自分でよかったら話し訊くよ?」

 わたしの涙を拭きおわった渚がハンカチをズボンのポケットに直しながら、わたしの目を真っすぐ見ながら言ってきてくれた。

 そんな渚の優しい言葉に……誰にも相談できずに(一華には愚痴は訊いて貰ったけど)、一人で誰にも言えず不安を抱え込んでいた美緒は思わず……

「わたし、このまま永輝さんの奥さんでいていいのか? 永輝さんは、わたしといない方が幸せなんじゃあないかなぁ? あぁ! ごめん渚君。こんな話して!」

「うんんん。僕なら平気。それより、美緒さんは大丈夫?」

「わたし? わたしは……」

 大丈夫なんかじゃあない!

 心はもうズタズタで今にも壊れてしまいそう。

 いますぐ助けて欲しい。

 けど、頼る相手がいない。

 一番頼りたい相手は、私を愛していない。

 それどころか、わたしは……いま、なんの為にここにいるんだろう?

 旦那に裏切られ、そして仲間だと思いた芹沢さんを始め、大好きだった職場の人達にはお金の為だけに人身売買されそうになった。

 私は、なんの為に生きているんだろう?

 わたしなんて、生きている価値あるのかな?

 一層……このまま……

「美緒さん! 危ない!」

「えっ? あぁ!」

「危ないだろう! 気をつけろ!」

 黒い軽自動車が、美緒の前をクラクションを鳴らしながら、通り過ぎて行く。

「美緒さん!」

 渚が慌ててしゃがみ込んでいる美緒の元に掛け寄ってくる。

「大丈夫? 立てる?」

「……うん」

 渚が美緒に向かって手を差し伸べてくる。

 美緒は、その手を掴みゆっくり立ち上がる。

「……渚君。わたし……」

「美緒さん。辛い時は、逃げてもいいと思う? 僕は、いつもでも君の味方だから。じゃあ、僕はそろそろ行くねぇ?」

 美緒の元を離れて、その場から離れようとした渚。

「待って!」

 そんな渚を美緒が引き止める。

「美緒さん?」

 渚が不安そうに美緒を見る。

 美緒は、そんな渚の姿に、

「……私を奪って」

「えっ?」

 渚が驚きながら美緒の顔を見る。

 その表情を見て、美緒は、自分がとんでもないことを口にしてしまった後悔した。

「ごごごごごめんなさい。今のはその……」

 美緒がその言葉を言い終る前に、渚が彼女の唇を奪う。

「渚君?」

 びっくりした表情の美緒。

 そんな美緒を無言で見つめながらもう一度、自分の唇を重ねる。

「……美緒。結婚してください」

 ゆっくり唇を離しながら、美緒に告白する。

「……はい」

 二人は、同じタイミングで唇を重ねた。

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