スノードロップ 貴方の死を望みます
第30話
(…樹利亜。いま時間大丈夫か?)
{…どちら様でしょうか?}
{!? 俺だよ? 俺}
(…警察呼びますよ)
{…すみません}
七瀬は、仕事が一段落したので、相棒である蓮杖奏(れんじょうみなと)と一緒に遅めの昼食を食べ、署に戻ってきた。
だか、署に戻るなり、七瀬は、何かを思い出したかのように蓮杖に「ちょっと妻に電話してくると」伝え一人、外に出てきた。
だが、電話に出た樹利亜の反応が怖く用件を伝える間もなく自分から電話を切った。
電話に出た樹利亜は、明らかに自分の事を知らない人のように扱った。
それはまるで、彼女の中で…自分が最初から存在していない、架空な人物。
「…七瀬さん?」
突然、うしろから誰かが七瀬に声を掛けた。
「…泉石! どうしたお前がここに?」
七瀬に声を掛けてきたのは、依頼人の付き添いで被害届を署に提出してきたばっかりの泉石渚だった。
「…知り合いからの男性からストーカー被害あった女性が、最初は、知り合いだから被害届は出さないとおしゃっていたんですけど、旦那さんが奥さんにもしもの事があったらじゃあ遅いからと被害届を出す事に決めたんです。だから今日は、一緒にくる事ができなかった旦那さんの代わりに付き添いで。あぁそうだ! よかったら、これ貰ってくれませんか? 明日から2週間仕事で家を空けるんです」
「おい! 泉石」
依頼人からお礼にと貰ったスノードロップを自分に押しつけたまま居なくなろうとした渚を龍治は、大きな声で呼び止める。
「なんですか?」
「お前この花本当に依頼人から貰ったのか? そもそも被害届も嘘だろう」
「どうしてそう思うですか?」
渚は、駆け出していた足を戻し、龍治の方を振り返る。
「お前はいつもタイミングよく俺の前に姿を現す」
「…流石、僕と昴を駒にしようとしただけはありますね? 貴方の言う通り、スノードロップは、貴方の奥さんである七瀬樹利亜さんから、貴方へ贈る、最初で最後の誕生日プレゼントですよ?」
渚は、龍治に、真実を告げ、樹利亜から預かったもう一つの彼の前に差し出す。
「…これも樹利亜さんからです。そう言えば、七瀬さんは、スノードロップの花言葉を知っていますか?」
「…」
「…貴方の死を望みます。よかったですね? 普通だったら殺されてますよ? いやあ? 僕が樹利亜さんの立場だったら、即行殺してますね。好きでもない男と結婚なんで死んでもありえない』
「俺は、そんなの絶対認めない。あいつとは絶対別れない」
龍治は、差し出したスノードロップを払い退ける。
「フフフ」
「なにがおかしい?」
突然笑い出す。渚の胸蔵を掴む。
「七瀬さん。貴方との会話は全て、樹利亜さんに筒抜けですよ? その証拠に電話鳴ってますよ?」
龍治は、渚を掴んでいない方の手で恐る恐る携帯を取り出し、相手を確認する。
「!?」
「どうしましたか? 電話出られないんですか?」
胸蔵を掴まれたままの渚が、顔色を変えずに、龍治に問いかける。
「出るよ! 出るに決まってるだろう!」
龍治は、掴んでいた渚の胸蔵を離すと…発信ボタンを押す。
『龍治さん。さっきは、ごめんなさい。さっきは取材中で、それで…貴方の事を知らない人扱いしてしまって…』
電話の相手は、妻である七瀬樹利亜。
「…樹利亜。おま…」
いざ、樹利亜を声を聴くと、言葉が出てこない。
『そう言えば龍治さん。今日誕生日だよね? 29歳の誕生日おめでとう』
本当に、こっちの会話が聴こえているのか、訊こうとしていた龍治は、突然の誕生日の言葉に、ますます聞けなくなってしまう。
「あぁぁぁぁありがとう。樹利亜、俺の誕生日、知ってたのか?」
「知ってるに決まってるじゃあないですか? 私は…貴方の…』
電話口の樹利亜が言葉を一旦切り上げ…覚悟を決めたかのように…旦那である七瀬龍治の名前を呼ぶ。
『…龍治さん。私が、貴方に脅されて貴方の妻になってもう、6年経つんですね? 時間の流れって残酷ですね? 私が、好きなのは堂城君なのに…どうして…愛してもいないのに貴方みたいな…卑劣で最低な男と結婚して、キスまでしないといけないんだろうね? ねぇ? 龍治さん。もう、私いらないよね? だって、あなたには、貴方の事を真剣に愛してくれる元ホワイトハニーの人気ナンバー穎川泉さんが居るもんね? だから、渚君にお願いしたの?私の代わりに、貴方にスノードロップを渡して欲しいって。さようなら…七瀬龍治さん』
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