第59話

{……そうなんですか? あの? それで…}

「兼城君! あなたが、來未のことを今でも好きなのは知っています。でも、ずっと好きでした」

「!」

 私からの突然の告白、もしくは來未の名前を出したことで私の事を完全に思い出した兼城君。

{……ごめんなさい。西野とは付き合えない}

 西野が俺のこと? いつから?

 だって、そんな素振り一度すら彼女から感じなかった。

 だから、西野からの突然の電話だけでもびっくりなのに、まさかの告白に兼城の感情はまさにパニック寸前。

「ふふふ」

{西野!}

 今度は、突然笑い出すなこ。

「本当、薪君って、來未の事しか見えてないんだねぇ? 今も昔も?」

{……そそそんな訳ないだろ! 変なこと言うな!}

 動揺して最初の一文字目がおかしくなる。

「そうかな? じゃあ訊くけど? なんで兼城君は、大学を卒業してから今まで一度も英語教師として教壇に立てなかったの? わたしすら、今は訳あって教師の仕事から退いてるけど3年間は英語教師として母校の教壇に立ったよ! そして、一年間だけど自分のクラスを持つこともできたよ! まぁ? 当時は色々大変だけど、今思えば楽しい思い出だよ!」

 本当に、あのまま母校が閉校されなかったら、私は、いまでも教師の仕事を続けていたと思う。

 それぐらい、教師の仕事にやりがいを感じていた。

 だからこそ、英語の成績も私よりも良くて、実習先の生徒、そして、母校の先生たちからの評判も兼城君が一番よかった。

 なのに、卒業後アルバイトとして働いていたカフェ喫茶「rose」にそのまま正社員として就職した。

{……roseの仕事の方が、教師の仕事より楽しかったから。それに、教員免許があればいつでも好きな時に教師の仕事できるし}

 兼城は、明らかに動揺している。

「……薪君って、嘘をつくとき、決まって言葉の最初がおかしくなるよね?」

{!}

「黙り込むって事は図星? 本当、薪君って、來未の事が大好きだよねぇ? 好きって告白しないの? 來未に?」

{……俺にはできない}

 そう、俺に、七橋に、告白する権利なんかない。

 あいつは……

 今も昔も、瀬野明希の恋人だ。

 だからこそ、明希も……

「……薪君。來未は、薪君のことが好きだよ! 勿論、來未のとっては恋愛の好きじゃあなくて、一人の友達の好きかも知れないけど、來未にとって薪君は、誰よりも大切な人だよ! それは、親友の私が保証する」

{西野?}

 私、なに言ってるだろう! 

 でも、もう言葉が止まれない。

「薪君。私、学生時代に來未に言われたの。報われない恋を待ち続けるぐらいなら、新しい恋に進んだ方がお互いの為だって。だから薪君。來未のことが本当に好きなら、告白しないと絶対後悔するよ! そうじゃあなくても、來未は天然ちゃんだから、ちゃんと言葉にして伝えない……」

 そう、私の親友、七橋來未はかなりの天然ちゃん。

 それでいて本人は、全くその自覚がない。

 だからこそ、周りにいる私を含め友人たちは、常に來未が変なことを言わないかピリピリしている。

 けどまぁ、なんやかんだで來未は、会う全員に皆に好かれていた。

 なので、学生時代、学年トップだった瀬野明希君と交際を始めた時は驚いたけど、その瀬野君が來未に何も告げずにアメリカ語学留学にしてしまい、その3年後、來未一方的に彼との関係を終われせた時はかなり驚いたけど、そのあとすぐ1ヵ月も経たずに常連客だった古橋総一郎と交際を始めたが、その彼とも3年で別れてしまった。

 けど、普通の人にとってはただの恋人との別れだけど、來未にとっては、ただの別れではない。

 來未は、好きだった人に婚約直前に1度ならぬ2度も振られている。

 振ったのは、彼氏ではなく來未の方。

 でも……

{……西野?}

 言葉の途中で急に黙り込むなこ。そんな、なこに、兼城は、どうかしたのかと名前を呼ぶ。

(……なんで私じゃあダメなんだろう? 私は好きな人に振り向いてすら貰えないのに)

「西野!」

{あぁ! ごめん! 薪君}

「大丈夫か? 悩み事があるなら……」

 心配そうに兼城が電話越しに声を掛けてくる。

{優しいねぇ? でも、いまはそう優しさが辛いかな?}

「ごめん」

{……冗談だよ。けど、わたしなら大丈夫。それより、薪君。来週からそっちクリスマスイベントなんでしょ? 告白するにはベストなタイミングじゃあん! 頑張ってねぇ。わたし、応援してるから! あぁ! じゃあ薪君またねぇ?」

 もう電話切ってもいいですか?

 これ以上、薪君あなたのこと訊いていると……

「あぁににに西野! ちょっと待って!」

 電話を切ろうとしたら、薪君が待ったを掛けてきた。

{なに?}

 なんだろうとなこは、手を伸ばそうとしていた通話終了ボタンから手を離し、もう一度スマホを左耳に当てる。

「……I was glad to talk to you for the first time in a long time. (久しぶりに話せてうれしかたった)」

{!}

 久しぶりに訊いた薪君の英語の挨拶になこは、嬉しくって一瞬言葉に詰まる。

 しかし、すぐさま……現実に戻る。

 そして……7年にも及ぶ片恋慕に別れを告げる自分へのレクイエムとして……彼に英語で返事を返した。

{i was happy to talk to you too. (私もあなたと話せてうれしかった)」

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