プロローグ

第1話

12月25日  午前7時30分 

「…さむい! 」

 冷たくなった両手を温める為に、息を吹きかけながら、來未は歩道を歩いていた。

 周りには、沢山の人が來未と同じ様に寒さを堪えながら歩いていた。

 その中には、子供と一緒に歩く親子連れやカップルなども色んな人がいた。 

 そして、寒さとは全く関係ないけど、いたるところから聴こえてくるクリスマスソング。

 そう、今日は、皆大好きクリスマス。恋人たちのクリスマス。

 だから、來未の周りに居るカップルも……皆、幸せそうに笑っている。

 けど、來未にとっては悲しい記念日。

 2週間(12月11日)、來未は、大好きだった人達の元を離れ、学生時代から住んでいた(華水)を離れ、誰一人知り合いのいない(菊代)に住み始めた。

※華水から新幹線では2時間。バスだとなんと5時間もかかる。それも、あくまで順調に行けばの話。 

 でも、それはあくまで表面上で理由で、遠くに行けるならどこでもよかった。

「はくしゅん。それにしても今日は寒いなぁ? まさかホワイトクリ……」

 言葉を言い終る前に、空から白い物が降ってきた。

 それも……ちょっとの量じゃあなくて、道路に落ちるたびにドンドン積もって行き、5分も経たない内に、一面銀世界に変貌してしまった。

「……嘘でしょ? 本当に雪!」

 確かに、ここ数日、空気凍り付くように寒かった。

 それでも、日中は晴れて雪など降る気配などい一切なかった。

 なので、今日の服装も冬用のコート(ブラウン)は着ているが、コートの下は黒のニットのロングのワンピース(目には銀縁伊達眼鏡)。足元にいったてはタイツこそ履いているがショートブーツ。

 なので、この突然の吹雪とはいかないが雪は体に響く。

 しかし、まだ服やブーツを着ている部分はいい。

 黒髪ロングから赤茶のベリーショートにした頭、そして、銀色のボタン型ピアス(耳を開けないピアス)をした両耳は、寒さで真っ赤に染まっている(來未は、普段から帽子を余り被らない)

 けど、今日はそのことをすごく後悔した。

「ってか? いま何時?」

 來未は、思い出したかのように、コートの袖を捲り左腕にしている腕時計(総一郎さんから始めて貰った最初のプレゼント)で、いまの時間を確認する。

 この腕時計だけは、どうしても捨てることができなかった。

 この時計こそ、一番最初に捨てなければいけのだか、時計じたいに罪はない。

 だから、この時計だけは捨てることができずに、一緒に持ってきてしまった。

「7時半! ヤバ! 急がな……あぁ!」

 歩き出そうとしたら、雪につまずき尻餅をつく。

「いったたたた。あぁ! もう最悪」

 立ち上がり、コートについた雪を払い、仕事場であるカフェに向かって歩き始める。

 來未が菊代にきてから働き始めたカフェ「空白の果実」

 菊代にきた初日。

 偶然目に入った食堂で、來未の事情を知った店長とその奥さんが、だったらうちの店でアルバイトとして働かないかと誘ってくれた。

 そして、住む所まで紹介してくれ、來未は今そこに、一人で住んでいる(家賃は、家具付きで6万)、本当は、無料で住んでいいからと店長は言ってくれたが、流石にそれはできませんと断った。

 でも、この二人に出会ってお陰で、私はこの街で生きていけると思った。

「あの?」

 歩きを再開した來未に誰かがうしろから声を掛けてきた。

「ん?」

 來未は、その声に気づき歩みをやめ、うしろに振り返る。

「……なんで?」 

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