第21話 ギブミーワーク
昼下がりの公園のベンチ。
おれは途方に暮れていた。
「カッコいい大人になる? 何言ってんの?」
依然としておれは無収入だった。
あれから協会内の訓練場で戦闘訓練を積んだり、ケータイのダンジョンに潜ったり。
気がついたら外食してたり、ジャージマンの増えたスキルを試したり。
協会地下ダンジョンの入り口で尻もちついたり、ジャージマンが自前の装備でも中層で戦えるのを確認したり。
「今ままでのおれと一緒じゃん!」
もう生活の半分がケータイのダンジョンで占められています。
ジャージマンの体力が回復してるのを見ると何かこう『潜らなきゃ!』みたいな気持ちになるんだ。
「格好悪いよ! お金ないよ! 彼女いないよ!」
ついこの間、夢と希望に溢れた新生活を迎えてやるぜ、みたいな雰囲気だったのに見る影もない。
大絶賛最底辺探索者としてデビューすらできず。
滑り台の脇に描かれたアン◯ンマンを見ながら無為な時間を過ごしていた。
「どうしようアン◯ンマン。おれ、明日に希望が見出せないよ……」
カバオくんの気持ちが少し分かった気がした。
「あっこの前のお兄さん」
「ほんとだー」「なにしてるの?」
近所のキッズ達が集まってきた。
「カズ君。お兄さんはもうダメかも知れない」
おれは探索者として上手く行ってないことを小学生に打ち明けた。
うん、分かってる。もうダメかも知れない。
「ダンジョンに行くだけが探索者じゃないよ?」
「えーなんでー?」「へー」
「どういうこと!?」
カズ君のお姉さんは新装備のモニターやモデルもやっているらしい。マジかよ。
他にも探索者の活動を宣伝するための広告やパフォーマンスをする仕事もあるそうだ。
「協会のお手伝いするとジッセキくれるんだって」
「おつかいとか?」「そーなんだー」
「なるほど!」
さすがはカズ君。そしてお姉さん。
協会のアルバイトで日銭を稼いで実績まで貰えるなら一石二鳥。
ダンジョンに入れないおれでもランクアップできるかも知れない!
「カズ君いつも本当にありがとう。お兄さんがんばるよ」
「じゃあ姉ちゃんの配信動画のフォロワーになってあげてよ」
「配信してんのすげー」「すげー」
「マジかよっ! するする、絶対フォローする!」
おれは美少女JK探索者のフォロワーになった。
後で観ます、絶対に。
「カズ君、いやカズさん。ありがとうございます」
その後、お礼にキッズ達の要望に応えてバク転、側転、バク宙、おれ的カッコいいポーズ、武器なしでジャージマンの必殺技の真似を披露しまくった。
本当はガリガリ君リッチくらい買ってあげたいけど最近は色々とうるさいからね?
◇◆◇
「職員さん、これからちょっといいですか」
「あら
「そのことはいいんです! 全然よくないけど!」
入れるものなら今すぐ入りたいですけどね。
おれはキリッとした職員さんにダンジョン以外でできる探索者の仕事を紹介して欲しいと告げた。
「お願いします。おれに協会のお仕事を受けさせてください!」
「赤青さんはF級ですので、実績ならダンジョン周辺の敷地内の清掃ボランティア。給金なら魔石の仕分けといった軽作業などはいかがでしょうか?」
えっ何それ。異世界転移した駆け出し冒険者の仕事かなんかですか?
「新装備のモニターとかは」
「そういうのは紹介か、ある程度の等級以上の探索者さんにお願いしておりますので」
ですよね、知ってた。
ランク上げのためにいい仕事をしたいのに、ランクがないと受けられない現実。
服を買いに行くのに着ていく服が無い状態。
さしずめF級はパンイチみたいなものだろうか。
「両方受けてしまっても構わないのだろう?」
「どちらも未経験なので片方でお願いします」
おれは魔石の仕分け作業に応募することにした。
お金が稼げないとヤバいし。
聞けばおれ以外にも低級で稼げない探索者がたくさん働いてるらしい。
人気なので完全予約制。キャンセルが入って一枠だけ空いてたみたい。
「ところで職員さん。この後一緒に食事でも」
「ごめんなさい。同僚を誘うかも知れませんので」
「なるほど」
◇◆◇
協会ビル内の作業場。
「フッ、おれのスキル【アイテムボックス】を喰らうがいい!」
「あんちゃん頑張るねえ」
魔石って形とか色とかちょっとずつ違うんだけど【アイテムボックス】を使えば等級別けは簡単。
機械と違って故障もないしメンテナンスも不要。
高額な魔石判別装置を造るより安くて早くて手っ取り早いということらしい。
「【アイテムボックス】【Item box】【アイテムボ〜ックス】【Item box】♪」
「はいそこ歌わない。口に出さなくてもスキル出せるようになってね。妙なポーズも要らないからね」
おれはスキル使い放題でテンション上がりまくってひたすら仕分けに従事した。
歌うのは注意されたので指パッチンでテンポよく。
「これはまさか、スキルを即座に出す訓練になるのでは!」
「ははは、なんだいあんちゃん。探索者に成りたてかい?」
「フッ、それはどうかな」
「最初の内はスキル出すの慣れないもんなあ」
ひたすら仕事に精を出す。
もっと早く! パチンッ…… ヴンッ
より正確に! パチンッ… ヴンッ
更に時間短縮できるはず! パチンッ ヴンッ
指パッチンと同時でも出るはず! パチヴンッ
「おれは……、【アイテムボックス】を極めてしまったのかも知れない……」
終わる頃にはすっかり周りの人と作業ペースが同じくらいになっていた。
まさか協会のアルバイトが訓練になるだなんて!
「仙道さーん。お疲れ様でした」
「ありがとうございます!」
一日(8時間)働いて日当は¥12.000。
思ったよりいいバイトなのでは?
完全予約制で毎日はやらせてもらえないけど。
おれは仕事仲間に誘われるままにお勧めのラーメン屋で一杯やって帰った。
仕事の後の冷えたビールが疲れた身体に滲みる!
「って、違あああう! これじゃあ会社員やってた頃と同じじゃあないかっ!」
おれは正気に戻った。
◇◆◇
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