第32話

『……朧……くん……』

(五条龍也。俺は、お前を絶対見つけ出す。そして、必ずこの手で……)

 瑞穂こと春村瑞穂と最初に出会ったのは、五年前の高校の入学式だった。

 俺は、地元の高校には、進学せず誰も知り合いがいない県外の高校に進学した。

 理由は、ある事件のせいで、地元の友人と溝ができたから。

 だから、親には本当の理由を告げずに、ダメ元県外の高校に進学したい、そしてバイトして学費と生活費を自分で払うから、一人暮らしをさせて欲しいとお願いした。

 すると、両親は、反対するどころか、簡単に認めてくれた。それどころか子供がお金の心配なんかしなくていいの! と逆に怒鳴られてしまった。

 今、考えると両親は、気づいていたんだと思う。俺がどうして、県外の高校に自分が進学したかったのかを。

 瑞穂と出会った入学式当日、俺は式が始まる一時間前に高校についてしまった。

 理由は、借りたアパートが、高校まで徒歩で三十分以上かかってしまうから。本当は、もう少し、近い所を借りるつもりだったのだが、予算の都合で借りることができなかった。

 だから、遅れるといけないから、早めにアパートを出たら一時間前に到着してしまった。

 なので、入学式が行わる体育館の近くで時間を潰すことにした。

 どこかに座れるところはないかとあたりを見渡していたら、座るのにちょうどいい大きな石を見つけた。

(ここでいいか。でも、このまま座ると制服が汚れるから、タオルを下に敷いてと)

 持ってきたカバンからタオルを取り出し、石の上に敷き、その上に座った。

 そして、もしものために、準備してきた小説をカバンの一番下から取り出す。

(結局、これのお世話になったぁ)

 読み始めてどれくらい時間が経つたのだろう。

「あの? それ、ホトギスさんのサクラシリーズですか?」

「えっ!」

 突然の出来事に俺は、思わず変な声を出してしまった。

「あぁ。ごめんなさい」

 謝って、逃げるようにどこかに行こうとしたので、急いで本を閉じて、この主を呼び止めた。

「待って」

 俺に声をかけてきたのは、ポニテールの女の子だった。

 俺に呼び止められた彼女は、再び自分の所に戻ってきた。

 そんな彼女に、俺は改めて、

「さっきは、いきなり声をかけられてびっくりしただけだから」

 と彼女に対して左手を顔の前に持ってきて、「大丈夫」と左右に振った。

自分の行動に納得にホットしたのが、彼女の視線が膝にある本に移る。

「あの? ファンなんですか? サクラシリーズの?」

 ※ホトギス著 偽探偵櫻木さくら 通称サクラシリーズとは、本物の探偵じゃあない偽探偵櫻木さくらが何故か事件に遭遇し毎回事件を解決していく。

 現在 三作品まで発売されている。

 自分が読んでいたのは、第一作目の偽探偵櫻木さくら 学校の謎を解く?

「臨場感があって、キャラクターも個性的で読んでいて飽きない。もしかしてファン?」

 俺は、逆に彼女に同じ質問を返してみた。彼女は、作者、タイトルまで知っていた。もしかしたらこの作者のファンなのかも知らない。

「……はい。私の周りにホトギスのファン、サクラシリーズのファン、それ以上にホドギスを知る人が居なくて……そしたらあなたがホドギスのサクラシリーズを読んでいたので……」

「蜩朧よろしく。名前なんて言うの?」

 終わりそうになかったから話を切り上げる為に自己紹介する事にした。自分でもわからないけど友達になりたいと思った。

「春村瑞穂です。よろしくお願いします」

「こちらこそよろしく」

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