第3話

コーヒーを飲んでいた朧のインカムに、零の声が届く。

『朧。あとは任せた』

 作戦通り、自分の前に現れた穂積に朧はコーヒー缶をゴミ箱に捨てながら声を掛ける。

「ねぇ?」

 いきなり見知らぬ男性から声を掛けられ、その場に立ち止まってしまった。

 不意に、自分の名前を知っていた男性と目が合ってしまう。

 男の恰好は、ダークブラックのスーツに白シャツに赤いネックタイ。そして、スーツと色を合わせたダークブラックの靴。

 穂積は、一応警戒しながら声を掛ける事にした。

「あの? 私になにか用ですか?」

「はい」

 男は、一言そう呟くと自分の腕を掴んで来た。

「いきなり何をする」

 腕を振り払おうとするが、払うことが出来ない。それどころかどんどん力が強くなる。

「それは、出来ない相談です。あなたが我々の質問に答えてくれるなら離します」

「いいから離せ。質問って何のことだ」

 もう一度、離せと穂積が朧に向かって叫んだ瞬間、

「朧、時間かかり過ぎ。俺、着替え終わったぞ」

 一夜零が変装を解き、蜩朧と同じ格好スーツ姿で現れた。

「零。この兄ちゃんが中々口割らなくて」

「お前、さっきの」

 零の顔を見て、穂積の顔が真っ青に変わる。

「さっきはどうも」」

「…」

「お兄さん。もう一回聞くけど、ここ何処か知らない? 一緒に写ってるのお兄さんだよなぁ?」

 写真を穂積の顔面に押し付ける。

「答えた方が賢明ですよ。どうせ逃げらませんから」

「逃げても、お兄さんのデータ全部把握してるから、どこに逃げても捕まえに行くけど」

「何者だ」

 質問されるのを待っていたかのように、真っ青のままの穂積の耳元に、優しく一言、囁く。

「BLACK BIRD」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る