清人と航平

第36話

「おまえさぁ、愛美をあの部屋に行かせるの、やめろよ。」


「荷物取りに行ってくれるって言うから、頼んだだけだよ。」


「愛美、気づいてなかったけど、鍵開けるとき、手が震えてた。だから、俺が開けた。」


「ところで、なんでお前まで俺の部屋に?」


「愛美一人じゃ無理だろ。あんなの見た部屋に入ったら、嫌でも思い出すだろ?」


「愛美、あの日、すごく冷静だったよ。

鍵開けて入ってきて、バッグからビニール手袋出して、アイツの服つまんで外に出して。アイツをシーツごと玄関から追い出した後、俺に服も着せず正座させて……」


「お前、ホントにその時、愛美が冷静だったと思ってる?」


「すごく冷静に見えたよ?」


「そんなワケないだろ!精一杯強がって、冷静なフリしてたに決まってるだろう!」


「愛美はいつも冷静で強いよ?」


「お前、愛美のどこ見てる?そんなの、強がりだよ。」


「なんでお前にそんなことわかるんだよ!」


「見てりゃわかるよ。

それとな、なんで俺がここにいるかって言うと、愛美が運転できそうにないくらい、震えてたからだよ。

鍵開けようとした時も震えてたけど、ベッドを見てからは、ホントに見てられないくらい、顔が真っ青になって、ブルブル震えだした。」

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