case6.針刺バイト
────本日は、どうぞ宜しくお願いいたします。
「いえいえ、こちらこそ!よろしくお願いします!」
突然のご連絡、誠に申し訳ございません。闇バイト経験あり・裏バイターだとネットアカウントに書かれていたので、ぜひお話を伺いたいのですが……。
「もちろん。教えられる事なら何でも教えますよ!えっと……確か、██さんのご友人、なんですよね?」
はい。アカウントの投稿に友人の██が載っていたので、もしやと思いまして。やはりバイトでご一緒に?
「はい。んと、何だったかな……あぁ、針通しバイト!彼とは針通しバイトで一緒になって、連絡先も交換してて。とは言っても連絡なんて殆ど……というか、スタンプしか送ってないんですけど」
なるほど。針通しバイトについて詳しくお聞きしてもよろしいでしょうか?
「良いですよぉ。あ、でも、██さんにはあんまり関係ないかもしれないです。
██さん、バイト始まる前に体調崩して帰ったんですよ。いや、帰された、かな。寒気がするって震えてたのをバイトの先輩に見つかって、お前そんなんじゃ仕事になんねぇだろ、って。そのまま強制帰還されてたので……」
……いえ、それでも大丈夫です。良ければバイトの内容も、お聞かせください。
「うーんと、穴に針を刺すバイトなんですけど」
ネットで拝見した写真にトラックが写っていましたが、これもバイトに関係ありますか?
「はい。それ、先輩が運転するんです。中が二室に分かれていて、後ろから乗り込んで、奥の部屋で……部屋と言っても、超狭いんですけど。まあ、移動式バイトっていうか。移動先で、仕事をするんです」
なるほど。穴に針を刺す、というのはどういった?
「そのまんまの意味ですよ。奥の部屋に入ると、真ん中に縫い針が六本ぐらい置いてあって、それを奥の部屋と手前の部屋を仕切ってる壁に刺すんです。三人で分担して、二本ずつ」
それは……どういった意味があるのでしょうか。
「うーん……それは、分かりませんけど。でもまあ、悲鳴は上がりますよね」
え?悲鳴?
「壁に刺すって言ったじゃないですか。針を刺す場所は決まってるんです。床と水平に、高さ八十ぐらいだったかな。横並びに、赤丸で囲まれた小さな穴が、六ヶ所。
そのうちトラックが止まって暫くすると、壁越しにノックされるんです。トントントン、って。それを合図に、バイトは一斉に六本の針を穴に刺して……刺すと、向こう側から、たまぁに、悲鳴が聞こえるんですよ。まあ、闇バイトだと悲鳴なんてあるあるですけどね」
それは、壁の向こう側に誰かがいる、ということですか。
「さあ?闇バイトしてる時は、あんまり深入りしないようにしてるんです、私。ただのバイト、何も知らない労働者。そう思ってないと気が狂いますし」
……気になったんですが、穴に針を通す、ではなく、針を刺す、と表現するのは何故ですか?
「え?……あー、はは。
なんか分かっちゃうじゃないですか。針が刺さる感触って。サク、みたいな。まあ、穴が小さすぎて刺す場所ミスっただけだと思いますけど」
そうですか……すいません、踏み込みすぎましたね。
「いえいえ…………あっ!」
どうかされましたか?
「すいません……本当はもう少し時間がある予定だったんですけど、今日はもう解散しても良いですか……?」
もちろん、良いですよ。
「ごめんなさい。以前から申し込んでいた別バイトから連絡が来て、あ、一応真っ当なバイトなんですけど。いやぁ、どうも抽選当たったみたいで、連絡が今初めて来て……うわぁ、この場所、電車直通じゃないじゃん……あぁ、すいません、嬉しくてつい自分語りを……」
いえいえ。本日は時間を割いて下さって、ありがとうございました。当選おめでとうございます。
「へへ、ありがとうございます。お話、役に立てたかはわからないですけど……その、██さん、見つかるといいですね」
はい、ありがとうございました。
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※このお話はフィクションです
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