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「あなたのおなまえはなんていうの?」と美湖の姫ははじめてお顔を見せた霧雨につたない言葉でそう言った。
「はい。美湖の姫さま。私は霧雨と言います。これからずっと美湖の姫さまのお世話をさせていただきます。どうか末長くよろしくお願いします」と屈んで身を低くして、小さな小さな美湖の姫と目を合わせるようにして、にっこりと笑って霧雨が言った。
お家が没落してしまって、もともと器量も悪くて、結婚もできなくて、着物もぼろではずかしかったけど、(もちろん、それなりに身なりは整えていたのだけど、どうしても見た目は悪くなってしまった)美湖の姫さまのご両親は霧雨の貴族としての作法の知識やお歌の上手さを認めてくれて、美湖の姫さまの御付きとして受け入れてくださった。
美湖の姫さまも器量の悪くてみんなによく笑われてたわたしのことを馬鹿にすることもなくて、見た目の悪い、ぼろを着ていても気にしないでいてくれて、にっこりと笑って、わたしのことをお家の中に受けれてくれた。
(もし、美湖の姫様の御付きとして受け入れられなかったら、きっとわたしは、もうそれほど長くは生きることができなかっただろうと霧雨は思った。体も弱くて、力仕事のようなお仕事もできなくて、お金にならないお歌を詠むことくらいしか得意なことはなかったから)
「きりさめ。それがあなたのお名前なのね」と目をきらきらとさせながら美湖の姫は言った。
「はい。霧雨です」とふふっと笑って霧雨は言った。
「きりさめがこれからずっとわたしといっしょにいてくれるんだよね?」と美湖の姫は言った。
「はい。もちろんです。美湖の姫さま」と霧雨は言った。
「ねえ、きりさめ。さっそくひとつ、お願いをしてもいい?」と少し興奮した様子の美湖の姫は言った。
「はい。なんですか? 霧雨にできることならなんでもしますよ」とにこにこしながら霧雨は言った。
「あのね、きりさめ」と恥ずかしそうにしながら美湖の姫は言った。
「はい。美湖の姫さま」と霧雨は言った。
すると美湖の姫は少しためらってから、勇気を出して、「きりさめ。わたしとおともだちになって。わたしね。ずっとずっと、おともだちがほしかったの」と大きな輝く黒い宝石のような瞳で霧雨の顔をじっと見て美湖の姫は言った。
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