第4話 二人の修行場

「やぁ! たぁ!」


 カンカンココン――


 木剣を何度も振り、受け止め、受け止めては打ち付ける。


 ココンカンカン――


 修行を始めてまだ一時間も過ぎていない。なのにリズの動きは殺陣たてを習っていた俺と同等の動きを見せている。


 まずい……一応だが経験者の俺が始めて剣を握った女の子に負けるとか、情けなさ過ぎるだろ!


 リズは女性で騎士になれてしまうほどの腕前に育つ未来があるのは知ってるけど!


 こ、これがヒロイン補正なのか! くっ! わからないが、かろうじて俺の方が優勢を保っている。はず!


 さらに数分。急にリズの剣を捌きやすくなった? いや、これ――俺も身体の動きが良くなってるぞ!


「むー! あ! た! り! ま! せ! ん! わ!」


 熱くなってるようだ。連擊のあと、鍔迫り合いの形に持ち込み、トンっと押し、距離を離して木剣をおろした。


「はぁ、はぁ、はぁ、そろそろ一回休憩しよう。きちんと休むのも大事だからね」


「はひゅー。疲れましたわー」


 修行場所を探していて見つけた、屋敷の裏にある人の歩いた跡が続いていた森の少し奥にあった狩猟小屋。


 踏み固められているところ以外は草が芝生のように生え揃い、障害物もなく剣を振るうにはもってこいの場所だった。


「本当に疲れたよ。それもリズが凄いからだよ」


「そうですの? でもドライの方がお強いですわよ。一度も身体に当たりませんでしたもの」


 いや、あの勢いで当てられると怪我しちゃうでしょ……。それに寸止めって言ってたよね?


「そう、かな、じゃあ、素直にありがとうリズ」


 地面に大の字に寝転がる伯爵令嬢。一応ドレスが汚れたり、破れたりしないようにドライの服を着てもらってる。


 ピンクブロンドの髪の毛も、後ろでひとつに束ねているので、汗ばんで、少し高揚した可愛いおでこまでまる見えだ。


 改めて自分とリズのステータスを見てみると、しっかりと【剣術】のスキルが生えていた。


 始めて一時間ほどで生えるスキルだからほとんどの者が持っているだろうけど、それを鍛えるか鍛えないかで、明暗は分かれるはずだ。


 だったらと、狩猟小屋があるから他の武器も試してみるのも良いかもしれない。聖騎士となるリズなら槍術はあった方がいいのかな。


「ねえドライ。お母様を治す聖魔法の修行はどうしたら良いのでしょう。魔法など、生活魔法しかお母様から習っていませんし」


「え? 魔法使えるのリズっ!」


「ドライ、こ、こんなところで押し倒されたらわたくしもう――す、好きにしてくださいまし!」


「あっ」


 ヤバい……いくら魔法が使えると聞いてテンションが上がったとはいえ、大の字に寝転んでいるリズにまたがり覆い被さってしまった……。


「ご、ごめん! リズが魔法が使えるなら、俺にも教えてくれないかな! そうすれば聖魔法の修行のやり方もなにか思い付くかもしれないし!」


「へ? 魔法? ですの?」


「う、うん」


 ぷくりとほっぺをパンパンにして唸るリズの顔がまた三十センチを切る距離にある。


「……むう。それくらいなら教えるのもやぶさかではないのですが……馬鹿ドライ」


 プイっと横を向いてしまった。こんな時どうすれば機嫌がなおるんだよ! 俳優業に集中してたから彼女もいなかったんだぞ!


 今なんて言われた! 思い出せ! それに答えれば! 確か――


『ドライ、こ、こんなところで押し倒されたらわたくしもう――す、好きにしてくださいまし!』


 ――だった! ここから読み取るなら、これだ!


「あ、えっと……。お、俺も好きだよリズ」


 言ったぞ! 部屋でも言ったけど! 実際に可愛いし、ドキドキするし、好きか嫌いかで言えば確実に好きだし、言えば原作の主人公にも渡したくないと心の底から思っているし!


「ほ、本当、ですの?」


「うん。大好きだよ。だから機嫌なおして欲しいな」


「わ、わたくしもドライのことは好いていましてよ」


「良かった。凄く嬉しいよ」


 真下から笑いかけてくれるリズに笑い返すと、希望通りの返事をしてくれた。


「わかりましたわ。剣はドライがわたくしに。生活魔法はわたくしがドライに教え合う。これでよろしいのではなくて?」


「うん。よろしくねリズ師匠」





 休憩のあと、生活魔法はあっけなく覚えることができたんだが、リズは――


『わたくしが五歳の頃からやっとのことで覚えた魔法をそのように簡単に習得するドライ……素敵』


 ――と、離れなくなった。


 それはさておき。生活魔法だ。水を何もないところから出す『ウォーター』、火種もないところに火が起こせる『ファイア』。


 便利なのは『クリーニング』。その名の通りなんでもカンでも掃除してくれる。汗ばんでいた身体に唱えれば、ツルツルピカピカだ。


 部屋にもあった光の正体『ライト』。


 それに忘れちゃ駄目な『ストレージ』。ファンタジー小説によくあるアイテムボックスだ。容量は個人差があるようだけど、近いうちに最大容量も調べておくべきだろう。


 そして今のステータスが――


 名前 ドライ・フォン・クリーク Lv3

 年齢 10歳

 性別 ♂

 技能スキル

 ・固有 超越者

 ・通常 鑑定 剣術New 生活魔法New

 ・耐性 毒耐性(小) 物理耐性(小) 魔法耐性(小)

 HP 9/9

 MP 5/9

 称号 クリーク辺境伯家三男

    転生者


 ――よし。


ん? MPの減りが、『ウォーター』『ファイア』『クリーニング』『ライト』『ストレージ』だろ? 五種類の魔法を一回ずつで覚えたから、使ったはずのMPは5のはずだ。


減りがおかしいよな。


 どれかMP無しの魔法があるのか? それとも回復したのか?


 ……よく考えたら、ストレージだけは何回も出し入れした、よな。もしかして消費無しで使いたい放題?


 ステータスを出しながら木剣をストレージに出し入れしてみよう。


 どうだ? 入れて、出して、入れて……十回以上繰り返してみたがMPに変化は無い。


 これは便利すぎる!


「ドライは魔力が多いのですわね。わたくしならストレージ十回で魔力切れして頭がキーンと痛くなりますもの」


 え? どう言うことだ?

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