07
「そっちはどうだ?」
「楽しくやれているわ」
「それならよかった」
二十時ぐらいに羽根さんから電話がかかってきて相手をさせてもらっていた。
いまは外だから他には誰もいない、柚木さんは既に寝てしまっているのもあって出てくるときも苦労はしなかった。
「どうせならあなたもいけるときの方がよかったけど」
「ま、もう一回はいけているから十分だよ、それに私は前回のあれで思い残すことがあったわけじゃないからな」
「微妙な状態にしてしまった私がいるからじゃ……ないわよね?」
言っておきながらあれだけどこれこそ悪い行動だと思う。
寧ろこの前の方がいちいち言い合いをせずに帰った分、彼女的にはよさそうだった。
「だから私は満足しているからいかなかっただけだ」
「それならいいけど……」
「って、本当は柚木だけがいれば十分だろ?」
またそれか。
他人だから仕方がないのかもしれないけどもう少しぐらいは自信を持ってもらいたいところだった。
というか、彼女に電話をかけたのは私の方なのにここで柚木さんのことを出すわけがない。
これから先も彼女がいる場合は柚木さんばかりを優先、なんてことにはしない。
「前にも言ったけどそれはもう無理よ」
「はは、そう言っているけど一カ月後には変わっていそうだな」
「羽根さんっ」
「そんなにマジになるなよ。あと、前もそうやって一人で加藤先生と別行動をして柚木から文句を言われていたんだからそろそろ学習しろよ」
切られてしまった……。
ただ、彼女は別に私と仲良くしたくて近づいたわけではないから同じような感じにならなくて当たり前だとすぐに片付けることができた。
柚木さんとか姉とか他の人が目的なのに出しゃばってしまっている状態なのでもっとよく見て行動しなければならない。
「おかえりー羽根ちゃんはどうだった?」
「あくまで普通だったわ、あと注意されたわね」
「注意?」
「ほら、また一人で外に出たからよ」
でも、ここでは柚木さんが寝ているから仕方がない面もあったのだ。
他の場所でも誰かに迷惑になる可能性があったから長く話すなら外しかなかった。
「ああ、はは、まあこの前は私が連れ出したようなものだから気にする必要はないよ」
「早織さんは?」
「いまはお風呂かな、一緒にいこうって誘ってくれたんだけど入る気にはなれなくてね。ちなみにそのときに心ちゃんを起こそうとしたんだけど全く起きなかった、流石に寝すぎだよね」
「それなら私達は頑張って柚木さんを起こしてからいきましょ、夏だからお風呂に入らないと駄目よ」
「うん、だけどいまなら真綾ちゃんもいるからいっちゃうよ」
ここで再び格闘することになるかと思えばそうではなく、少し声をかけるだけで柚木さんを起こすことができた。
部屋でゆっくりするのはお風呂に入ってからでいい。
「ふぅ~熱いね」
「気持ちがいいわ」
前とはまた違う場所だけど入ってしまえばそう変わらない。
若干熱いけどなんかスッキリする、悪いものを一気に流せた感じがする。
「お母さんがいるかと思ったけどいなかったね、すれ違いかな」
「そういえばそうね」
何種類もあって楽しみ方が色々ある場所ではないし、もう出てしまったのかもしれない。
「もし部屋にいなかったらどうする? 柚木早織さん誘拐事件かも」
「お姉ちゃんは余計なことを言わないで、大体そんなわけがないじゃない」
いく先いく先で事件が起こるような某アニメの世界ではないのだ。
みんなお金を払って非日常感を味わうだけ、お互いに干渉しないから時間がくればあとは去っていくだけだ。
「これが平和ボケってやつなのかもねー」
「それなら真綾と一緒に探すよ、少女探偵の誕生だね」
「ゆ、柚木さんも付き合ってあげなくていいから……」
「そうすれば自然と真綾との時間が増えるから大歓迎だよ?」
駄目だ、こういうところでも羽根さんの存在が必要だった。
少し悪く言ってしまえばボケ担当しかいない、ツッコミ役がいなければごちゃごちゃしていくだけだ。
「ぷは~やっぱりお風呂上りはこれだよ」
「コーヒー牛乳とかじゃないの? なんで炭酸飲料なの?」
飲んでくださいと言わんばかりに設置されているのに。
「火照った体にはこういう刺激が欲しくなるものなんだよ、寧ろみんながよく牛乳なんかで我慢できるよね」
「私は大人だから無糖のコーヒーだよ。よし、飲む――苦い……」
なんかどちらもどうでもよくなってしまってハイテンションの姉と、無理をしたことで涙目になっていた彼女を連れて部屋まで戻るしかなかった……。
「あ、早めに帰ってきてくれてよかったよ、扉の前でずっと過ごすことになるのは流石の私でも辛いからね」
「すみません……」
「え、謝らなくていいよ、この時間差なら待って一緒にいけばよかったねー」
あとはもうこの二人のことを任せたかった。
これ以上は私になにかできそうはないからさっさと布団の中に潜って朝まで時間が経過することを願っていた。
「真綾、疲れちゃった?」
「いえ、少し目を閉じていただけよ」
今回は帰っている間も解散になるまでも問題なく終えられてよかった、意外だったのは家まで彼女が付いてきたことだ。
そういうのもあっていまここには私と彼女しかいない、姉はどこかにいってしまった。
「今回は上手くやれてよかったわ」
「うん」
「ただ、今更だけど羽根さんにいてほしかったわよね?」
彼女にもはっきりしてもらってあの子が余計なことを言わないようにしたい。
「んー今回のこれは意地悪をしたわけじゃないけど仲間外れにしているみたいだからいてくれた方がよかったよ、その上で今回みたいに真綾といられればもっとよかった」
「はは、あなたは変わらないわね」
で、でも、一緒にいてほしいと言っているわけだから私が全て間違っているわけではないのだ。
録音していなかったのが駄目だった、多分彼女にそのまま言わせても素直ではないあの子は受け入れないだろうから。
「羽根がいても一番は真綾だからね」
「なにをそんなに気に入ってくれているの?」
「びびっときたからかな」
答えになっていないし、彼女的にこれが答えだったとしても曖昧すぎてどうしたらいいのか分からない。
とはいえ、スルーせずに答えてくれているわけだから強気にも出られず……。
「わ、わんたんの様子を見にいきましょうか」
こうして全力で変えていくことしかできなかった。
これに対しては分かりやすく不満そうな顔になって「聞いておきながらそうやってなかったことにするところは気に入らないけど確かに気になるからいこう」と抵抗されることはなくてよかった。
「わんたんただいま」
「猫と違って短期間で分かりやすく変わったりはしないわね」
あのときと同じで静かで元気そうだ。
いまはこちらを見上げてきている、必死に誰かを思い出そうとしているみたいに見える。
なんとなく羽根さんと会ったら「誰だっけか?」なんて冗談を言われそうな気がした。
「元々成長済みみたいだからね、ちなみに私もそう」
「ふふ、そうみたいね」
「あんまり大きくないから真綾に抱き着いていても姉妹としてカウントしてくれるかも」
「柚木さんには姉になってもらいたいわね」
だけどその場合もツッコミ役が不在になるから他の誰かも必要になる。
「え、意外、妹じゃないの?」
「ええ、だってあなたの方が色々なことにも動じずに、それでいて他の人にも優しくできるもの」
「でも、さやかが嫉妬しないかな?」
「あんなのただの冗談よ。それに冗談でもなければあなたは私と仲良くしたいのでしょう? だから気にする必要はないの」
なんらかの不満があったとしても家族だからなにもできない。
家族のレベルを超えて仲良くしようとする人ではないからそちらはこのまま終わるだけなのだ。
「あれ、姉妹という話からなんでそうなったの?」
「と、とにかくっ、そういうつもりでいなさいってことよ!」
汚い欲望が出てしまって、彼女も上手く流してくれはしなかった。
本当に気になっているかのような顔で聞かれたら恥ずかしいどころの話ではなくなる、正直に言うと走り帰りたかったぐらいだ。
「お、落ち着いて、そんなに慌てなくても大丈夫だよ」
「……ごめんなさい」
更にハイテンションになることはできなかった。
もう邪魔にならないように縮んでいるぐらいがいいかもしれない、それで埃と一緒に掃いてもらうぐらいがいいのかも。
「でも、真綾の中にも私と仲良くなりたいって気持ちがあるの分かってよかった、嬉しい」
「そ、そう?」
「顔が赤いよ? こういうのって実際に起こるんだね」
「きょ、今日は暑いからよ」
「そういうのもだよ、素直に認めるのは恥ずかしくてそれっぽいことを言って躱そうとするんだよね」
きょ、今日の彼女は私に意地悪をしたい日のようだった。
流石に一人ではやられそうだったので休んでいた早織さんにも来てもらった。
「再びすみません」
「気にしなくていいよ、それより真綾ちゃんは家族にならない?」
「でも、早織さん的に姉の方が好きですよね?」
帰りの車内でもそうだったけどとにかく姉と喋りたくて仕方がないように見えた。
隣でわんたんを撫でている彼女が寝てしまっていたのもあったかもしれないものの、明らかに早織さんは姉目的だ。
不満も言わずにやたらと付き合ってくれているのも私がいれば姉が来る可能性が高いからなのかもしれない。
「んーさやかさんは友達って感じかな、お休みに集まって一緒に盛り上がりたい仲間って感じ」
「早織さんはお酒、好きですか?」
「んー好きとまではいかなくても飲めるよ? だけどジュースでいいかな」
「はは、それなら姉と仲良くなれると思います」
お酒好きの二人なら肩を組みながら居酒屋で盛り上がっているところが目に浮かぶ。
飲めない人が参加しても「私の酒が飲めないのかよ~」などと言って姉なんかはうざ絡みをしていそうだった。
「うん、さやかさんとは仲良くしたいよ――だけどいまは家族にならないかって話だから」
「それは無理ですよ」
「うぅ、心じゃないから真っすぐに振られてしまったわ……」
「大丈夫だよお母さん、私が誘っていても同じ結果になっていたからね」
私がお世話する必要もお金もかからないのならともかくそんなことは全くないから実現しない話でしかなかった。
「もう夏休みも終わりだなー」
「今年はあなた達のおかげで引きこもることにならなくてよかったわ」
半分ぐらい一緒にいられたのは私にとってかなり大きかった。
「だからアイスを買ってくれたのか?」
「そういうのもあるわね、ご飯の方がよかった?」
「いや、あんまり世話になるわけにはいかないからこれぐらいでいいよ」
まあでも、確かに何回も奢ればいいわけではないからそこは彼女の言う通りだ――とか考えていたら急に頭を撫でられてその手をぎゅっと掴んでしまった。
「加藤のいいところは拒絶しないところだよな、そういうところも加藤先生と似ているよ」
「ま、前も言ったと思うけど姉に似ているなら嬉しいわね」
「ただ、私に対しても一生懸命になってしまうところは柚木的にマイナスだな」
「それ以上は駄目よ、今回は目の前にいるわけだから抱きしめてでも止めるわ」
「お、それならやってみろ――躊躇がねえ……」
当たり前だ、こういうことに関して嘘は言わない。
またやられないようにそのままくっついていると「柚木を呼ぶわ」と言って電話を掛け始めてしまった。
唐突なそれにも関係ないとばかりにやってきた柚木さんと、先程のことを律儀に説明している彼女がいる。
好きで一緒にいたいとかならともかくただ私にこんなことをされたと気になっているだけだから盛り上がれない件だ。
「羽根って私に遠慮しているよね」
「遠慮なんかしてねえよ、だけどこういうことはちゃんと言わないといけないだろ」
「真綾とこそこそ会うのは?」
今日は彼女の方から来てくれたからいつもよりも嬉しかった。
「毎回言っているんだから変な絡み方すんな」
「分かった、じゃあまなみって呼ぶね」
「なあ加藤、柚木って変だよな」
「ふふ、どうにかして名前で呼びたかったのよ」
姉の名前だって気に入っていて何回もさやかと呼んでいるから勝手な妄想とはならない。
彼女は腕を組んでから「それじゃあ心って呼んだ方がいいのか?」と何故かこちらを見ながら聞いてきた。
「ふふん、そんなに呼びたいなら心でいいよ?」
「なんかキャラおかしくなってね? ま、なんか面倒くさいから心って呼ぶわ」
「真綾、こういうのがツンデレだよ」
「デレてねえだろ」
「まあ、まなみさんは口が悪いわね――あ、冗談だから叩かないで」
待った、変な遠慮をしているからだと考えていたけどこの二人は実際にいいところまでいっているのかもしれない。
一人で内で盛り上がっている間にも二人は楽しそうに会話をしている。
残念なのはこの前と違って柚木家ではないから帰ることができない点だった。
「真綾もまなみも好きだよ」
「ま、差はあっても悪い気はしないな」
「さやかも好き、まなみはもっとさやかに絡んでいけばいいと思う」
「未だに教師のことを呼び捨てにしているのはどうかと思うけど、それはなあ……」
「真面目な人だからまなみが真面目ならちゃんと向き合ってくれる」
姉のことをよく分かっている、あとあのボケを前に動じずにいられれば戦力としても期待できる。
姉と柚木さんのどちらとでも仲良くしてもらえればそれでいいため、私が負けることは絶対になかった。
「はは、それなら私は真面目じゃないから駄目だな」
「諦める理由を探すのはやめよう」
「ま、待て、なにか変な勘違いをしていないか? 別に心と違って恋愛対象として見ているわけじゃないぞ?」
そういうのは言えば言うほど怪しく見えてくるものだ。
私が気持ち悪い笑い方をする前にもう少しぐらいは抑えてもらいたいところだった。
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