第10話
慎二がやって来た。小走りだったので、少しばかり息が切れている。
「遅い」
校門からやや離れて、雪子が立っていた。下校する生徒たちが、さりげなく見ている。
「待ちくたびれたわ。女の子をこんなに待たせて平気な顔しているなんて、どんな薄情者なの。死ねばいいのに」
不機嫌そうに腕を組み、頬を膨らませて睨んでいる。
「午後の授業をカフェでサボっていた罰として、職員トイレの掃除を仰せつかっていました。誰かさんにも責任の一端があると思うけど」
「誰かのせいにしたい気持ちはわかるわ。つらい現実から目を背け続けた人生だったのね。でも、もう大丈夫よ。今晩私とお父さんのケンカを仲裁したら、あなたに安らぎが訪れるから」
「安らぎの意味が怖いよ」
二人は歩き始めていた。慎二は彼女の家に行くべきかどうか、自分の意思について半信半疑の状態であった。
「あのさ、ほんとうにやるのか。俺が仲裁を」
「そうよ。じゃないと、私は路頭に迷う可哀そうな子羊になってしまうんだから」
「子羊というより、狼だよなあ」
慎二の柔らかな裏太ももを、雪子の可愛らしい指先がつねる。
「いててて。そういうことは、もっとソフトにしなさいって」
「ソフトに触ったら、ただの痴女でしょう。痴漢はしても、痴女はしないわ」
「だから逆だって」
二人はバスに乗っている。乗客は雪風東高校の生徒ばかりだ。狭い二人席で密着しているカップルを、それとなく気にしていた。
「それで、菖蒲ヶ原さんの予知では、俺がどうやって仲裁することになってるんだよ」
「そんなこと訊いてどうするのよ」
「どうするって、知っておいたほうがいいだろう。どうせ、その通りになるんだし」
「ネタバラシをしたら面白くないでしょう。男は黙ってぶっつけ本番、ってことよ」
「空手三段のサディストを相手にするんだから、前もって心の準備をしておかないと」
「大丈夫よ。基本だけは温和なんだから」
二人はバスを降りて歩いている。途中、雪子は和菓子店に立ち寄り一本三百円のくし団子を十個買った。それを慎二に持たせて、歩きながら食べ始めた。
「行儀が悪いよ。それに、そんなに食べたら夕食が入らないだろう」
「お父さんと人生最大の大ゲンカをするのよ。いまのうち食べておかないと食べられなくなるでしょう。それと慎二にはあげないからね」
「そもそもケンカすることがわかっているなら、未然に防ぐという考えにならないのかいな」
「愚かな父と可愛い娘のバトルは未来の決定事項なの。私は神様に挑戦する気はないの」
そう言って、甘いしょうゆ餡がたっぷりな一本を慎二の前に突き出した。
「はい、あげる」
「いま、俺にはあげないって言ったじゃないか」
「意地の悪いことを言って、慎二の泣きべそが見たかっただけよ」
左手でくし団子の容器を抱えて、右手でつまんだ。ベトベトのしょうゆ餡が指を汚したが、串に刺さった三つの団子を三口で食べた。
「うん、ふつうの団子で美味い。これがセレブの味か」
「私も初めて食べたけど、ほんと普通。せいぜい百円ね。この国は庶民からなんでもかんでも奪ってしまうのよ」
「庶民って、菖蒲ヶ原さんは違うじゃんか。家はお金持ちだし、うちの高校のアイドルだし。少なくともセレブでしょう」
雪子は返事をしない。好ましい話題ではなかったと気づき、慎二は別の楽しいことを探した。
「そういえば、近所のおばさんがお魚くわえた野良猫を追っかけてたんだけど、よく見るとハクビシンだった。お魚くわえた野良ハクビシンってことだよ」
「その話、オチもないし、ぜんぜん面白くないのだけど。私が不機嫌になったから気をつかってくれたのかしら」
「面白くなくてごめん」
なんとなく気まずくなってしまい、それから十分ほど二人は無言で歩いた。
「じゃじゃーん」
大きな邸宅の前で雪子が突然、両手を広げて自らの口で効果音を鳴らした。
「いきなり、なんだよ」
「なんだよって、ここが我が家なの。私の家。セレブの家。だから、ジャジャーン」
その効果音がセレブリティーらしからぬ貧相さだと慎二は思ったが、もちろん口には出さなかった。
「ここが菖蒲ヶ原さんの家か。やっぱりセレブだなあ。プールとかありそう」
「さすがにそこまで(欧米)ではないよ。でも、池があって鯉は泳いでいるけど」
「(和風)だね」
「わっ、ふう」
雪子が両腕を胸の前で狭めて、バストの盛り上がりを強調するポーズをとった。もちろん、おふざけである。
「挟む胸がそれほど大きくないのよ」
そのことについて、慎二はあえてコメントしなかった。
「ちょっとう、なにか言ってよね。私がバカみたいじゃないの」
「菖蒲ヶ原さんは、まあまあデカいから大丈夫」
慎二が知っている事実を端的に伝えた。
「そう言ってもらえたのは素直にうれしいわ。すっごいセクハラだけど」
慎二が苦笑いをする。
「さあ、我が家に入って。鬼はいないから心配ない。かわりに、誰かをボコボコにしたい空手マンの短気な物書きがいるだけ」
雪子の後に続き、慎二がいかにも頑丈そうな鉄の門を通りすぎた。
「うわあ、池がある。ほんとに鯉がいるんだな」
玄関に入らず、わきに逸れて庭に立ち入った慎二が、自宅に池があるというゴージャスな事実に驚いていた。
「鯉がそんなに珍しいの。野池にふつうにいるじゃないの。お願いだから食べないでね」
「家に鯉がいる家庭なんて奇跡だ。もう、すんごくセレブ」
しばし池の鯉を愛でた慎二は、よく手入れされた庭木についても賞賛の声をあげた。
「草木に興味があるなんて意外ね。庭師にでもなったら菖蒲ヶ原家専属として雇ってあげるわよ」
「検討してみる」
盆栽がそのまま巨大になったような松を触りながら、まんざらでもない様子だ。
「さあ、こっちに来て。私の部屋は庭にはないから」
雪子に連れられて、慎二も家の中へ入った。恐縮しながら広くて長い廊下を歩く。
「そんなにビビらないでよ。カミナリが落ちるわけでもないし」
「カミナリよりも怖いものがいそう」
「オヤジということかしら」
雪子の部屋の前までやってきた。
「じつは女子の部屋に入るのは初めてなんだ。ちょっと緊張する」
「間違っても、いやらしい考えや行動はしないように。あなたがこの部屋に入れるのは、あくまでも私のボディーガード、ってことなんだから」
「ちょっと待ってよ。話が違うんじゃないか。俺はあくまでも親子喧嘩の仲裁だったはず。危険手当の出る役は引き受けてないよ」
「なんにも違わないの。ちゃんとそうなるんだから。それと手当は廃止されたから」
「見たのか。プレコグで俺とオヤジさんが、そのう、なんかやり合うのを」
慎二は不安になってしまう。雪子の部屋に入ったら、ヘルメットや防具になるものを探し出そうと企んでいた。
「さあ、入って入って。あなたは菖蒲ヶ原雪子の部屋に入った最初の男になるんだから、とても名誉なことよ」
重要なところをぼかされてしまったが、女の子の部屋へ入ることに胸が躍る男の子だった。
「うわあ、広い。てか、いい匂い」
その部屋は、一般的な女子高生が住むには広かった。壁に沿ってやや大仰なベッドと学習机があり、対面には洋服ダンスやら衣装ケースがある。ややベージュがかった壁には女子高生が好むようなポスターやグッズなどの飾りはなく、シンプルに垂直だった。
「ドラムがある。ほんとにドラマーなんだ」
その部屋でもっとも目を引くのはドラムセットだ。ドアの右側に配置されている。
「それは電子ドラム。ちゃんとしたのは別の部屋にあるから」
「ちゃんとしたドラムを部屋に置いたほうがいいんじゃないの」
「家中に響いちゃうでしょう。シンセだったら、ヘッドホンしながら叩けば問題ないの。別の部屋は防音壁になっているから」
雪子は、女子高生ドラマーとして動画投稿サイトに自分の演奏を披露している。その美少女さもさることながら、高校生とは思えないほどの腕前は好評で、再生数もドラム演奏者としては群を抜いていた。
「そういえば、動画で見たのはこんな感じではなかった」
「あらあ、見てくれたのね。ありがとう」
本気でうれしいのか、いつになく嫌味がない笑顔である。
「親父と一緒に観たよ。とにかく手数が多くて、リズム感がプロ並みだって褒めてた」
「リズムをわかってくれるオジサマは好きよ。今度お邪魔するときは菓子折りをもっていこうかしら」
上機嫌でお茶を淹れ始めた。
「自分の部屋に電子ケトルがあるのは、さすがセレブだ」
「三千円の安物だけど。お茶が飲みたくていちいちキッチンに行ってたら、お父さんと出くわしちゃうから。夜はお手伝いさんが寝てしまうし」
「メイドさんがいるのか。俺みたいな庶民にはリアリティーがないよ。やっぱりメガネな女の子がメイド服を着てるのかな」
「年配の家政婦さんよ。メイドって、慎二が言うといやらしく聞こえるのだけど。ちなみに名前は水戸さんね」
「御威光がありそうな家政婦さんだなあ」
雪子がティーカップを差し出した。自分には愛用のマグカップである。紅茶はティーバックであるが校務員室で朧が淹れる出涸らしでなく、未開封の未使用品であり、しっかりと味の濃そうな色が出ていた。
「そういえば、お母さんはいないのか」
「女優だから、撮影で外泊ばっかり。あんまり家に帰ってこないかな。ちなみに、お父さんとは仲がいいよ。夫婦間のゴタゴタはナシ」
「へえ」
慎二の声は乾いていた。
「私とも普通かな。家にいるときはお弁当を作ってくれるし。味は、まあイマイチだけど」
愛想笑いは、やはり乾いていた。
「とにかく、お父さんが厄介なのよ。すんごくウザい。もう、どうしようもなくイライラするの。私にまとまったお金があれば、凄腕のスナイパーを雇ったのに」
そう言って、慎二に向かって引き金を引くポーズをする。
「でも、ドラム動画の再生数はけっこうなものだから、そこそこの稼ぎになっているんじゃないのか」
この質問は、慎二が気になっていたことの一つだ。
「ねえ、私の動画をちゃんと見たの。広告がほとんど入ってないでしょう。アドセンスは取ってないわ。無収益ということ」
「もったいない。どうして」
「親の同意が必要なのよ。そして、私のお父さんが同意しない。稼ぐのは高校を卒業してからだって言うの。もう、見事なブロックだわ」
そのことも父娘不和の原因になっているのだと察した。
「菖蒲ヶ原さん、そのう、ちょっと聴かせ欲しいんだけど。ドラムの生演奏なんて滅多に聴けないから」
曲を聴くというより、ドラムを叩いている美女の姿を愛でたかった、という本音は隠しておいた。
「もう、そんなにせがまれたら仕方ないわね。じゃあ、こっちきて」
雪子が電子ドラムの椅子に座り、こっちこっちと手招きする。まんざらでもない笑顔で観客用の椅子を用意した。
「後ろで見ててね」
電子ドラムは壁に向かってセットされていた。背もたれのない丸い椅子に、桃のように形よく、しかも柔らかそうな尻がのせられた。そのすぐ背後で慎二も席に着いた。
「リクエストがあれば、どうそ」
首だけ回して要望を訊いた。
「う~ん、そうだなあ。まあ、任せるよ」
「そう。じゃあ、これね」
曲のイントロ部分が始まった。雪子はまだ叩いていない。外国のスパイ映画のテーマ曲であり、金切り声のようなバイオリンが特徴的だ。
「ワン、ツー、」
叩き始めた。シリコン製のドラムパッドが振動し、その打音が電子的に増幅されてアンプから放たれる。ボリュームは大きめに設定されていたので、生ドラムのような臨場感があった。三分ほどの演奏時間だったが、慎二はいい感じに魅せられてしまった。
「すごい、すごい、ブラボー」
後ろからではあったが、熱い拍手をして熱演をねぎらった。
「ま、ちょっと本気出しちゃったかな」
雪子は満足した表情だ。慎二がアンコールをするので、もう一曲叩こうとした時だった。
「雪子、うるさいぞ。ヘッドフォンをしろと言っているだろう」
いきなりドアを開けて叱ったのは中年の男だ。眼鏡をかけた面長顔で神経質な目つきだが、体つきはがっちりとしていた。目じりと鼻が雪子に似ている。彼が温和でサディスティックな父親であると、慎二は瞬時に悟った。
「なによ、勝手に開けるな。あっち行ってよ、ハゲ」
娘が、さっそく食ってかかった。憎々し気な目をぎらつかせながら、キーキーと甲高く言う。
「おまえ、父親にその口の利き方はなんだ」
絶望的なほどハゲではないのだが、琴線に触れていることは確かだ。
「その男はなんだ、同級生か」慎二を睨みつけた。
「新条慎二君よ。私の彼氏なんだから」
(ええーっ)、と内心がどよめいたのは父親だけではない。
「い、いや、俺は、え、か、彼氏って、マジか」
思いもかけずに、盆・暮れ・正月・クリスマスイブが一気に訪れた。人生で最大の僥倖なのだが、女の子と付き合ったことのない男子は浮足立っている。
「そんな冴えない男と交際なんて認めてないぞ」
それはそうだと、本人も納得であった。
「男の人を好きになるのに、お父さんの許可なんていらないわ。江戸時代じゃないんだし、バカじゃないの」
恋は盲目である。女子高生は一歩も譲る気がなかった。
「勝手にしろ」
壁と柱が壊れるのではなかと思えるほどの衝撃でもって、ドアが閉じられた。父親は不機嫌を全開にして行ってしまった。
部屋の中では、唇を嚙みしめた雪子が慎二を見つめていた。タカのように鋭い眼光であり、とてもではないが恋する乙女のものとは思えない。
「勘違いしないで。事の成り行きで言ったまでよ。だから、勘違いしてないで」
父親に反抗するために、あえて刺激的な作戦をしたのだと慎二は理解する。ただし、少しばかり落胆していることは内緒だ。
「わざわざケンカのきっかけを俺に求めないでくれよ。猫とか犬とか金魚とか、他にいっぱいあるだろう」
「彼氏じゃないとインパクトがないでしょう。父親の逆鱗に触れるには、いかがわしい男が娘とイチャついてなきゃダメなのよ」
「俺たちは、まだイチャついてないけど。てか、いかがわしいって、俺のことか」
「言葉のあやよ。なに本気になっちゃっているの。バッカみたい、バカ」
慎二は閉口する。雪子の言葉の中に、どれほどの本気があるのか、あるいは偽りなのか計りきれないでいた。
「いまのは序盤戦だからね。これからが天王山の戦いになるんだから」
腕をまくる仕草で、雪子なりの本気度を見せた。
「だから、なんで俺になるの。そもそも、どうしてお父さんとケンカしなくちゃいけないんだよ。仲良くできなくとも、ケンカするまでことを大きくすることないんじゃないか」
三秒間、雪子は慎二の顔を穴のあくほど見つめた。その痛さに、男子はたじろいてしまう。
「な、なんだよ」
「聴いて」と言って、ドラムの丸椅子に座り直した。スティックをもって、バスドラムのペダルに足をかける。
「菖蒲ヶ原さん、なにが始まるんだよ」
いかめしくも可愛らしい背中は何も言わない。慎二は黙って聴くしかなかった。
「えへんっ」と、いかにもな咳払いのあと、その演奏が始まった。
「♪ さんまをくわえた雪子さん、おーっかけ~て~、オヤジが~、説教するの~、不愉快な~雪子さん~。みんなが困ってる~、雪子さんが困ってる~、レーレのレレロロロ~、今日は大嵐~、ズンチャチャ、ズンチャチャ ♪」
演奏を終えた雪子が振り返り、腕を組み偉そうな態度で慎二を見た。
「それで、どうなの」
「いや、どうなのって言われても、いまのは替え歌だよな」
「そうよ。私の心情を洩れなく、余すことなく表現してみたわ」
「最後のほうの、ズンチャチャズンチャチャってのは、口で言わなくてもいいような気がしたんだけど。ドラムで叩いてるんだし」
「わかり易くしたまでよ。慎二はなにかとニブイでしょう。ニブイ男のために頑張ったんだから讃えなさい」
素直に礼を言うべきかどうか、多少の迷いがあった。
「ええーっと、つまり。お父さんの小言がウザ過ぎて大嫌いなので大喧嘩しなきゃならないと」
「違うわ」
「え、違うのか」
雪子が背中を向けた。スティックを手にして壁に向かって話しをする。
「お父さんは好きよ。だって、私のお父さんなんだから。小さいころからよく遊んでくれたし、こうやって何不自由なく生活を送れるのもお父さんの稼ぎがあってこそだから。感謝感激しても嫌うことはないわ」
♪ タン ♪ と叩いて締めた。
「だったら、わざわざ親子でケンカすしなくてもいいのでは」
「しなきゃならないという欲求なの。うまく説明できないんだけど、お父さんに逆らいたいっていう気持ちがめっちゃある。なんなのよ、この悶々とした感情は。そう考えていなくても、自然と湧き上がってくる。理屈じゃなくて衝動なのよ」
「うう~ん」と慎二は考える。
雪子が電子ケトルから追加のお湯をティーカップに注ごうとするが、慎二はそれを遮って意見を言う。
「前に言ったけど、それは大人になるための通過儀礼というか、思春期の反抗期というか、まあ、ふつうだと思う」
「前にも言ったけど、慎二の意見もふつうね。そんなの、私にだってわかるから。アドラー心理学の本を読んじゃってるのよ」
「フロイトじゃなくてアドラーなのか。マニアック過ぎるって」
「慎二はマニアックな女は嫌い?」
雪子がぐっと身を寄せて訊ねる。
「いや、そのう、じつは嫌いじゃないかな。ははは」
慎二は照れていたが、雪子がパッと離れて冷たい目線を流した。
「ヘンタイ」
苦笑いをする慎二であった。
それから二人は他愛のないおしゃべりをしたり、ドラム演奏をしたり、慎二がドラムを教わって時が過ぎていった。夕暮れ時になって、コンコンとドアをノックする音がした。
「誰か来たみたいだ」空手親父が来たのかと思い、慎二は緊張する。
「お手伝いさんよ。たぶん、晩ご飯の時間なんだと思う。今日はちょっと早いかな」
雪子がドアを開けると、菖蒲ヶ原家の家政婦が立っていた。夕食の用意ができたことを告げる。
「今日のメインはとんかつとエビフライだって。食べ盛りの男の子には最適ね」
「ええーっと、ひょっとして俺も食べていいのかな」
「もちろんよ。じつは揚げ物が好きな慎二のために、あらかじめ水戸さんに頼んでいたの」
「水戸さんって、さっき言ってた家政婦さんか」
「そうよ。お手伝いは水戸。ちょっとかすってるでしょ」
「ははは」
なにがしかのデジャブを感じたようだ。
「お父さんと一緒だから覚悟してね」
「まあ、そういうことだよな」
このとびっきり可愛いプレコグは未来を変えるつもりがないと、慎二は理解している。いけるところまで行くしかないと覚悟を決めるのだった。
「お父さんと食事は久しぶりだから、私のほうが緊張しているかも」
「大丈夫。俺がついているから」
「じゃあ、お願いね、ダーリン」
雪子は、小憎たらしいまでの笑顔を見せて慎二の腕に自分の腕を絡ませた。
ズキューンとハートを撃ち抜かれた男の子は、大きく頷いて頼もしい漢の表情になった。
「じゃあ、行きましょうか」
「エスコートするよ」
仲つつましいカップルのように腕を組んで、二人は部屋を出た。
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